巨人 80歳のロリンズが語った


なになに界の巨人という呼び方はあまり好きではないが、今年80歳を迎えたというソニー・ロリンズは、やはりジャズ界の巨人の一人だ。しかも、ジャズ界をリードしてきたという意味では、現在生き残って活動している最後の巨人なのだ。

NHK-BSの深夜番組に、ソニー・ロリンズが出ていた。すでに来日回数は果てしない。実は前回の来日の時には金沢にも来ていて、歌劇座でコンサートを開いている。その時のパンフレットに文章を依頼されて書いたが、そのおかげで、最高の席のチケットをいただき聴いてきた(もちろん自分でも買っていくつもりだった)。

実は今回もこれが最後の日本公演になるかも知れないみたいな雰囲気を漂わせているが、前回もそうだった。特に金沢でのコンサートという意味では、かなり実感的に捉えていたと言っていい。だから、古いメンバーの一人、ベースのB・クランショーの今にも消え入りそうだった音色にも、それなりに納得して拍手を送っていた。あれから何年か過ぎたが、まだまだ元気なソニー・ロリンズはやはりタダものではないのだ。

ところで、ボクが敢えてここで書きたかったのは、ソニー・ロリンズというミュージシャンとしての素晴らしい人間性についてだ。

ジャズの世界では有名な話だが、ロリンズはかつていきなり表向きの音楽活動をとりやめ、ジャズシーンから隠れたことがある。自分の演奏スタイルに行き詰まり、突然活動を休止した。そして、独り黙々とテナーサックスの練習に励んでいたという。ひとつの楽器を究めていくというスタンスは、かつてのジャズマンたちにはよく見られた傾向だが、ロリンズもまた、そういう道を歩みつつ、さらに自分自身のスタイルを限りなく追求した一人だった。だから、彼が残してきた演奏には、妥協のない即興ソロがたくさんある。

番組は、ロリンズへのインタビューが中心だった。その中でロリンズは、どのような気持ちでテナーサックスを吹いているのかという質問に対し、“目の前にいる人が、どうしたら喜んでくれるかということを、常に考えながら演奏している”といった意味のことを答えていた。ジャズは即興演奏の結晶だ。豊かな楽想とテクニックに、気持ちや感情を織り交ぜてパフォーマンスする。それがジャズだ。ジャズ的音楽だ。同士であり、ライバルでもあったジョン・コルトレーンとは対局にあるが、コルトレーンとの違いはフリーに走らなかったことだ。つまり言い方を代えれば、常に分かりやすさを兼ね備えた即興演奏をメインにして、ジャズの主流に居続けた。

 今、80歳でありながら、彼は目標を、“もっと上の、みんなが喜んでくれる演奏”と語った。そして、人にとって大切なのは、“何かについて語り続けること、それが人それぞれに与えられた使命だ”とも言った。

インタビューの最後に司会の女性が、何か吹いてくれませんかと頼むと、何十年も使い続けているテナーサックスを、ソファーに座ったまま吹き始める。当然即興だ。表情豊かに、ロリンズらしい楽しさと感情のこもった音色、メロディが自由自在に飛び交っていく。

いつの間にか、聴いていた女性の目には涙があふれていた。演奏が終わると、その女性が言った。私はジャズとかまったく分からないのに、演奏を聴いているだけで、涙が出てきたと・・・・・・・

ジャズやジャズ的音楽とは本来そういうものなのだ。歌詞もない、楽器をとおしたメロディと音が、聴き手に何かを伝える。受け取る方は、何でもいい。自分の尺度で、自分の感性でそれに応えればいい。演奏者のメッセージと聴き手の感性とがコラボしているだけで、ジャズやジャズ的音楽は成り立っているに過ぎない。

ソニー・ロリンズはそのようなことを、易しく、そして自分流に示してきたのだ。ただ、何かについて語り続けていくこと。そのことを自分にあてはめていくと、それは、一体何なのだろう・・・・・ 見えているようで見えてこないもの、結局はそういうもので、だからこそ、語り続けるしかないのかも知れない・・・・・と、思う。

 番組が終わると、早速、ロリンズの代表作『セント・トーマス』を聴いた。夜中の静けさの中に、若きロリンズのメリハリのきいた音とメロディが流れ始めると、ボクの中には80歳のロリンズの顔は消えていた・・・・・・・・

※写真は、テレビ画面より


“巨人 80歳のロリンズが語った” への1件の返信

  1. あのな、
    オレもここ10年くらい前から、音楽聴いてるとよ、涙腺が緩むことが度々あって、困ってるよ。綾戸智恵のライブとかな、、、

    一年前は、なんと、仕事中のカーラジオから流れた『いきものがかり』の『YELL』を聴いていて、突然、泣いた、な、、、(T-T)
    そのあと、この動画↓
    http://www.youtube.com/watch?v=wscXSmJsX78

    なぁ、N居よ、、、なぁぁぁんで、オレが中坊のコーラスを聴いて泣かなきゃいけねぇんだぉ、あぁ?!?( ̄_ ̄メ)

    説明してくれ!!!

    おまいには責任があんだよ!オレの音楽的体験にはな!

    最近ではこの動画↓
    http://www.youtube.com/watch?v=4wtiWxj1mc8&feature=related

    特に4分55秒からのブルース・スプリングスティーンとスティービィ・ワンダーの掛け合いにはグッ、、、ときた!(T-T)
    あと、3分50秒に出てくるボブ・ディランの曲の崩し方がメッチャかっこいいわ~♪(^-^)
    キム・カーンズとダイアナ・ロスのお歳を感じさせない美しさにもまいっちゃうぜっての(Love)!
    この録音当時32歳ってのが信じられないくらい可愛ゆいシンディ・ローパー♪

    話ゃ戻って、、、
    ロリンズは、、、何年前かなぁ、、、もう既に20数年前か?ロリンズ金沢公演のタダ券をブン屋から貰って、観光快感に行ったよ。
    ボントロが入ってたな。なんか、それは憶えてるよ。
    オレ的には、やっぱ、ベタだけど、N居と同じくサキコロのロリンズが最高だわな!!!

    祥稜 拝

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