事故に遭遇し 思い出したこと


富山へ向かう高速で、かなり痛烈な事故現場に遭遇した。

南砺市に入り、トンネルを抜けて、道路が下りながら大きくカーブしていく、その下りきった辺りだろうか。前を走っていたクルマが突然ライトを点滅させ、一気にスピードダウンした。その前のクルマもほとんど停止状態でいる。

それを確認したところで、大破した乗用車らしき物体と、その50メートルほど前方に道をふさぐようにして横転しているトラックが見えた。ぞっとした。気付くのが遅ければ、こちらも事故に巻き込まれていたかも知れない状況だった。

クルマの破片などが道路に飛び散っていた。そして、道路の隅に顔から血を流す男性の姿があった。仰向けに倒れ、胸を押さえ、しきりに左右に体を揺すっている。その横で別な男性が呆然と座り込んでいた。

朝の高速道路はかなり混んでいて、ボクのクルマの後方にもランプを点滅するクルマが続いていた。こういう場合どうすればいいのかと、一瞬戸惑うが、どうしようもできない。前のクルマから、事故車をよけるように抜けて行くしかない。

そう言えばと、高速に乗ってしばらくした後、「7km先事故」の表示が目に入ったのを思い出した。あの少し前に事故が発生したのだとすれば、まだ5分ぐらいしか過ぎていないのかも知れない。当事者たちは自力で移動したのだろうか、救急車もパトカーもまだ来ていない状況だ。

ボクは正直かなり動揺した。前のクルマに追突しそうなくらいの勢いで急停止したことと、事故現場の荒れた状況を目にしたことが重なった。先日、運転中に気が遠くなって、不気味な空洞時間を体感したが、この刺激はそんなことも思い出させて余計に恐怖感を煽った。

正直に告白すると、瞬間的に、ボクは後部座席にあるカメラのことも考えていた。だが、それを使う気持ちにはなれなかったのは言うまでもない。

何年か前にも、長野県の山道でボクはある交通事故に遭遇した。

オートバイと乗用車の衝突事故らしく、中年のライダーがヘルメットをかぶったまま、腕を押さえて倒れていた。クルマの方の老人紳士が頭を抱えながら道にしゃがみ込んでいて、その横に奥さんであろう老婦人が立ちすくんでいた。

クルマを降りて、倒れているライダーに声をかけた。しっかりとした口調で「大丈夫だ」という声が返ってきた。救急車を呼ばなければならないと思い、携帯電話を取り出す。しかし、「圏外」になっていた。

ボクは、「とにかく電話がつながるところまで行きます」とライダーに告げ、またクルマを走らせた。

かなり走ったところに小さな展望台があり、駐車場にクルマを止めた。先に一台のクルマが止まっていた。

「事故の現場、通りましたか?」 クルマを降りると、いきなり声をかけられた。声をかけてきたのは若者で、ここまで来ないと、携帯電話は繋がらないんですよという意味のことを話してくれた。地元らしい彼の話では、前にもこの山道で事故があったとのこと。連絡に時間がかかるから、救急車の到着も遅くなるとのことだった。

若者はさらに、「さっき、連絡が付いたんで、これから現場へ戻ります……」と言った。ボクは 「えっ、もう連絡はついてんの?」 と、すぐさま聞いた。

若者は、でもやはり時間はかかるでしょうね、と言い残して、クルマを走らせて行った。素朴なアウトドア好きという雰囲気の若者だったが、ボクは彼のクルマを目で追いながら、激しい“後ろめたさ”に襲われてしまった。

クルマを運転しながら、あることを深く考え込んでいた。

ボクは、たしかに救急車を呼ぼうとしたが、携帯電話が“圏外”であったことで、瞬間的に、早くこの現場から離れることができると思ってしまったのだ。そこまでではないが、ボクにはほんのちょっとだけ、やはり安堵があったのだろう。こういう現場に長居はしたくないと思ったのかもしれない。

山の遭難事故などでも、とにかく体の動く者が最も近い山小屋に事故を伝えに行くとかして、救助を求めに行くしかない。その間に遭難者が死亡してしまったというケースも少なくないが、しかし、とにかく行かなければならない。だから、あの事故との遭遇の時も、ボクが救急車を呼ぶために現場を離れたことは決して間違ったことではなかったのだ。ただ・・・・・

考えても仕方のないことなのに、ボクは富山のいつものコーヒー屋さんで、トールサイズの、ちょい濃いめのやつをすすりながら、そんなことを思い出してしまった。

しかし、どちらにせよ、やはり交通事故には気を付けねばならないのだ……


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