大野はやはり都だった


思い立って、福井の大野へと出かけた。毎年行われている朝市まつりを見るためと、久しぶりにやさしい大野のまちを歩きたかったからだ。

いつもだったら白山麓から谷峠を越え、勝山を通って行くのだが、今回は高速で福井ICまで行き、そこから国道158号線をひたすら真っすぐ大野へと向かった。高速を下りてすぐに山間の道になり、足羽川を横にしながら進む。越美北線の単線レールも素朴で、途中一両編成の車両と出会い嬉しくなった。

走りながら、こんな風景はたぶん石川にはないなと、なんとなく考えたりしている。その根拠が何なのかははっきりしないが、たしかに石川にはこのような山間の風景と鉄道が絡む場所はない。かつて白山麓まで北陸鉄道の電車が走っていた時代にはあったのかも知れないが、そんな時代のことは知らないのだ。

 大野の街に入ると、七間朝市通りが異様ににぎわっていた。それもそのはず、その日は年に一度の「三大朝市まつり」の日で、あとでさらに分かったのだが、その奥では京都や静岡などからやってきた工芸作家たちなどの屋台市みたいのも行われており、ただひたすら、そしてとてつもなく盛り上がっていた。

 中心部にある 「越前おおの結(ゆい)ステーション」と名付けられた場所に何とかクルマを停め、歩きだす。

それにしても、大野はかなり“いい感じ”になっていた。大野城の築城430年という年にあたり、10月は催し物が目白押しということもあってか活気に満ちていた。

平成大野屋」という第三セクターであろう組織が運営され、中心部の雰囲気もかなりいい。里芋や醤油などの特産物などが売られている施設も立派だし、展示施設も立派で、仮設ながら内容の濃い展示が行われている。とにかく文化的な匂いがぷんぷんと漂っている。

 予想外(ただの予習不足なのだが)の展開にウキウキしながら、とにかく七間朝市通りへ。通りの真ん中にテントが張られ、屋台が並ぶ。両側の店も個性的な雰囲気で、酒屋や菓子屋などが軒を並べている。古そうな酒屋の前では若い女性たちが並んで、試飲に熱中したりしている。大人気らしい「芋きんつば」の店の前には長い列ができていた。歳を食っているのか、若いのか分からない交通整理役も面白い。場を和ませている。OKサインを送ると、ニコリとして返してきた。

七間通りから寺町通りに曲がる辺りからは、身近で個性的なクラフト作家たちの作品が売られる小さなテントが並んでいた。この作家たちは、どういう風にしてこの場所へ来ることになったのだろうと不思議に思い、事務局っぽいテントに行って聞いてみた。二人のいかにも役員ですという男の人がいた。

聞くと、寺町通りへの角にある妙典寺というお寺の住職さんの呼びかけで集まるのだそうだ。そのご本人が、二人のうちのお一人だった。凄い数だ。山野草の店を出していた関西からの女性は、秋だけでなく春にもやってくれたら、もっといいもの持って来れるのにと話していた。お客とああだこうだと話し込んでいる風景がいい。

 その妙典寺の前で、面白い“風ぐるま”の店を見つけた。前後にふたつの羽があり、風に当てると、前後の羽が反対方向にまわる。作り手の青年がいろいろと説明してくれる。その話が面白く、聞き入っているうちに、いつもの胸騒ぎがしはじめてきて、これは使えそうだと逆に青年に対して素性をたずねたりした。

彼の名前は、久保剛さん。勝山の指物師の三代目だった。指物はだんだん作る数が減ってきて、今はこういうクラフト作品にも力を入れているとのこと。さまざまなイベントなどに参加して大活躍みたいな感じで、人との交流を楽しんでいると語ってくれた。この風ぐるま、たしかに、どこかほのぼのとしていて郷愁を誘う。当然、一本買って帰り、玄関に置いた(下の写真)。

近いうちに金沢の人たちにも見てもらおう。そういう話をしていたら、いつでもどこでも呼んでくださいと言う。作り方の体験もできるのだそうだ。最近どこかへ行くと、必ずこういうニンゲンと出会う。というか、出会うようにしていると言った方がいいかも知れない。彼ともさっそくメールのやりとりが始まっている。

 「福や」さんで、三味そばをいただき、今度は大野城へと足を運ぶ。といっても、下まではクルマで移動。丘の上に立つ大野城までは、約20分の登りだ。雨が降り出していた。小さな城だが、下から見上げると凛々しくてカッコがいい。中は四層になっていて、最上階からは四方が見渡せた。市街地が見下ろせるかと思えば、その反対側は田園風景といった具合に、まちは非常にコンパクトな広さに修まっている。こんなバランスが大野の良さなのだろうと思う。

 まちなかの水場スポット“御清水”にも久しぶりに足を運んだ。水の都である大野のシンボルのようなスポットだ。透明感の高い水が静かに湧きだし、流れている。旧内山家という武家屋敷の周辺にも繊細で美しい流れがあり、その武家屋敷と相対して建つ「まなびの里めいりん」という現代建築の前にも百間堀という水場があった。とにかくいたるところに美しい水が流れていた。商店街のお店の前にも、ぽつんと湧き水があったりするのだ。

大野に大満足した。歴史感のあるまちは、やはりいいなあとつくづく感じていた。そして、何よりも山里の中にそういうまちがあることがいいのだと、あらためて思った。

少し違うかもしれないが、飛騨の高山や信州の松本などと共通した個性をしっかりと感じる。季節を変えてまた来たいと思ったのだった・・・


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