雪山と雪焼けと顔のシミなどについて
生まれつきかどうかは分からないが、乾燥肌である。手の甲や指先などは、この季節いつもざらざらしている。
さらに昔から太陽に晒してきたせいか、シワやシミがひどい。よく「年寄みたいな手をしているではないか」と言われたりもした。
その辺のところでは、顔もひどい。雪山の乱反射などをまともに受けてきたこともあって、でかいシミがあちこちに溢れている。
かつては一年中黒かったから、特に目立つことはなかったが、最近は自分でもこんなに色白だったのかと思うほどに色が抜けてきて、その分シミの方がより鮮明になってきたわけだ。
シミにはミカンなのよと言ってくれた人もいたが、年柄年中ミカンを食っているわけにもいかなかった。
神社でもらった絵馬に「シミがなくなりますように」と冗談で書き記したりもした。が、神様の担当枠外であるらしく、何のご利益もなかった。
冗談でもそんなことに執着していたのは、人からよくシミについて質問されたからだ。たまに会う実の姉でさえも、ボクのシミには毎回驚いた顔をした。皮膚科へ行った方がいいと何度も言った。
当然だが、いいオトコが台無しだ…と言う意見もなかったわけではない。
雪山で滑落し、アイゼンの刃でズボンやスパッツを切り裂いたという傷跡ならカッコいい。初代のスパッツは未だに補修せず、自分の部屋の壁にぶら下げられていたりもする。
しかし、顔の雪焼けのシミが残ったということに関しては、ドラマチックなストーリー性などない。
かと言って、いちいちシミが出来た原因について語っているのも様にならず、相手の視線がシミに行ったりする時は、顔の向きを変えたりもした。
しかし、最近はそんなことに気を遣っているのもバカバカしくなり、かなり無頓着になってきたし、相手も単なる加齢によるシミぐらいにしか思っていないのも事実だろう。
そういうふうに考え始めると、今度は手のざらざら感の方が気になり始め、そこにクリームなんぞを塗るようになってきた。もちろん自分の知恵ではなく、家人の指導の下だ。
ところで、初めて雪山に挑んだ(と言うほどもないが)のは、今からちょうど30年ほど前の春先のことだ。
北アルプスの剣岳前方に聳える標高2600mほどの大日岳に、親友Sと富山在住の“山のコーチ役”T本さんとで出かけた。
清らかに若かったボクは、その前年から雪のある山へ強い憧れを抱くようになっていて、とにかく翌年の春先には雪の北アルプスへ行くぞと、激しく鼻の孔から空気を吹き出していたのだ。
そのことをT本さんに告げると、まず耳鼻科へ行った方がいい…などとは言わずに、いろいろとアドバイスをくれ、そして最後に「オレも一緒に連れてケ」と言った。
一緒に行ってくれるのは当然大歓迎だった。とにかく氷点下まで冷え込んだ人っ子独りいない、称名の滝の脇から、表面が凍った雪の壁をよじ登るのだ。まずもって、ルートファインディング自体、T本さんがいなければ話にならない。
しかし、T本さんは山での技術や、酒の正しい飲み方、缶詰の中身を素手で食べるお点前、それにミカンを皮ごと食べたりする時の作法などには凄い見識があるのだが、ちょっとデリケートなことになると全くダメだった。
それが日焼けの予防などにモロに影響した。
たくさんあったT本さんからのアドバイスのうち、雪焼けに関しては「なんかクリームみたいなもん、持ってこられよ」だけ…だったのだ。
サングラスが必携というのも強調していて、それは何とか忘れずに持って行ったのだが、実はクルマの屋根に置いたまま歩き始めてしまった。もちろん、それはボクが悪いのであって、下山後、雪目と言うやつでひどい目に遭ったことは自業自得だった。
さて、なんかクリームみたいなもん…なのだが、ボクは家のテーブルにたまたま置いてあった「Nベア」という綺麗な青色の缶に入ったやつを持って出た。
まさに、なんかクリームみたいなもん…だったのだ。
白い息を吐きながら、深い谷間の道を一時間ほど詰め、いよいよ登山開始というところで入念に塗りたくった。万全だった。しかも、一時間おきに。しかし……
実は、Nベアは全く逆の効果をもたらす、クリームみたいなもん…だった。
紫外線をぐんぐんと吸収?して、顔面から皮膚の奥へとその怪しい成分を送り続けた?のである。もちろん、Nベアには何の罪もない……
悲惨な結果は、唇にも及んだ。
今でこそUVカットの高性能リップクリームは当たり前のように必携するのだが、その頃、ボクの認識には全くカケラも存在していなかった。
登山自体も苦しい雪山歩行が強いられたが、登頂もでき、稜線から谷を挟んで剣岳の雄姿も仰いだ。
登頂を個人的に断念して、途中の大岩の上で昼飯作るわと言っていたTさんのランチも賞味できた。雪のロックも腸(はらわた)に沁みた。
そして、ボクが投稿したそのレポートは、ヤマケイにも掲載された。いただいた原稿料を資金にピッケルも買った。
しかしなのだ…。下山後の半月は周囲の異様な視線と、顔面ヒキツリおよび唇ヒリヒリ状況の中で過ごさなければならなかった。
顔の皮は二度むけた。黒光りし乾いてくると、パリパリと表面の皮の割れるのが分かった。洗面所で顔を洗うと、下から出てくる顔もやはり黒かった。
唇も思うように開けられず、うどんは二本、ラーメンは五本ほどが一度に啜ることのできる限度だった。さらに汁も沁みて、かなりの困難と情けなさが強いられた。
たまたまサングラスを忘れていったために、パンダ状態にはならなかったが、目そのものは真っ赤に充血していたのは言うまでもない。
ついでに書くと、その後の雪山山行ではサングラスによって顔は鼻から上、眉毛あたりまでがクッキリと白く残るようになった。紫外線の侵入を完全に防ぐゴーグルみたいなやつを付けるのだから、尚更その威力が発揮されるのだ。
唇には当初白いUVカットを塗っていたが、そのうち透明のUVカットが出てきて、白いのを落とさずに下界に来て、変な目で見られるようなこともなくなった。
今は顔面全体にUVカットを塗って、日焼けそのものをしない対策が普通になっている。
いかにも山へ行ってきたことを隠しているみたいで、ボクとしては不本意なのだが、皮膚ガンやら何やらと言われて、渋々塗ったりしている今日この頃である。
こうした、雪焼け騒動も最近では全くなくなり、淋しいかぎりだ。黒光りの顔が懐かしい……
いいですね。
かなりお若い頃の写真もいいです。
顔のヒリヒリ感が伝わってきます。
私も雪山が好きです。
あの白だけの世界は何とも言えませんね。
ただし、やはり日焼けは禁物ですよ。
私もかなり注意していますが…
最初の頃はみんな真っ黒でしたね。
中居さんも十分お気をつけて。
そこまでして行かなきゃならないんですかねえ?
なんて考えることがナンセンスなのだと
読んでいて納得しました。
満足できるまでどうぞ黒焦げに。
人生短いんですからね。