hisashinakai
🖋 山の空と妄想と
今でも山を見ていると、不思議と永遠な何かを思ったりする。
山は空に繋がっているからだと思っている。
空にある雲も同じだ。
雲はそんな空に浮かんでいたり、空を流れていたりするからだろう。
昔のメモを見ながら書く……
かなり前のことだが、北アルプス奥黒部の山々を見渡せる場所で、岩の上に寝っころがり空を見ていた。
午後の空は、青が一層濃くなったように感じられ、わずかに浮かんでいた雲たちもどこか遠慮しがちだった。
しかし、時間がたつにつれ、その雲たちの存在がぽつんぽつんと空に広がり始めた。
気が付くと、自分より少しだけ高い位置で、並びながら静かに浮かんでいるようになった。
そして、その様子を見続けていると、なぜか激しい無力感に襲われ始めたのだ。
それは自分の中で、死後の世界のようなものに繋がっていた。
そして、西日が薄く広がってくると、あまりにもその気配が強くなりすぎ、息苦しささえ感じるようになってきた。
空の上に、また空がある。
その空はもうどこまでも続く空で、下界で見ていた空とは違った。
雲の上にも、また雲がある。さらに、その上にも。
宇宙が昼間の状態で明るく広がっているのだ。
実際はそうではないことも知っているつもりだが、その昼間の宇宙が永遠という感覚を煽っている。
そして、自分はその昼間の宇宙の永遠の中に、ぽっかりと浮かんでいて、二度と戻れない……
ふと、家族のことを思った。
自分が死んでいく時の家族のことだ。
そんなことを思うこと自体で、すでに自分が弱い存在として今あることも感じた。
空を見ていることに耐えられなくなり体を起こすと、空はやや前方に広がり始める。
ダイナミックな稜線が、広い視野の中に戻ってくると少しホッとした。
身体が冷え込み始めていることにも気が付く。
傍らには、空っぽになって握りつぶされたモルツの空き缶とカメラ。
現実に戻ったのかどうか、山にいるから、その感覚もおかしいのだが、とにかく下の山小屋に向かって、来た道を下り始めた………