hisashinakai
ある古い洋風の家
子供の頃、この家に友だちがいて、中で遊んどったことがあるよ……
近所にお住まいの、七十才を過ぎたある方がそう言った。
板壁の塗装は褪色し、木肌も傷み、窓の飾りもいくつか朽ち落ちている。
何よりも傾きが気になると、その方は屋根を見上げていた。
ある著名な作家さんも、偶然この家を見つけて、何とか残して活かせればいいと言ったそうだ。
かつて金沢の街並みを取材する仕事で、このような洋風の家がいくつも残っていることを知った。
しかし、歴史と絡んだテーマが主であったから、あまり大きく取り上げられなかった。
この家もそのひとつだ。
あの時よりも、はるかに傷みはひどくなっていた。
今から思えば、町家もいいが、こんな洋風の家も捨てがたい。
私的感覚で言えば、無理して畳の上でジャズをやっているより、フローリングの床でやってくれる方がいいように、このような建物には新たなそれらしい使い道を見つけてやるべきなのだろう。
いろいろと課題もあるだろうが、まずは柔軟に、普通に、当たり前に思い描くのがいいのかもしれない。
ボクもその方も、かなり大雑把な方なのでこれ以上は言わない。
隣りにある、江戸時代の建物を補強したという古風で小さな店の二階で、お昼ご飯をいただいた後、一部に陽の当たった洋風の家の前で、その方と長く立ち話をした。
話はこの建物から始まって、京都の町家の方向へと流れた。
そして、もう一度この家の話に戻り、ではまた…ということになった。
狭い路地に、秋の風が一筋、二筋と吹いていたのだ………