夢の中で埋められる……


 あることで不意に思い出したことがある。正月早々に泥の中に埋められるという奇妙な夢を見ていたことだ。罪人か、とにかく囚われの身であったのは確かで、夢の中の時代は戦国、ボクは当時の百姓のような身なりをしていた。周囲には何人かの同類のような人たちがいて、その人たちも同じような身なりだった。長くヒゲが伸び、ボクは痩せていた。そして、若かったような気がする。ひょっとして、一揆の首謀者だったのかもしれない。

 梅雨時らしかった。雨が上がったばかりでじっとりした空気感があった。濡れた竹藪の中を歩き、最後に滑りやすい坂道を下った。裸足だった。

 埋められるのであろう場所で肩をつかまれ、ボクは立ち止った。水を抜いたばかりの水田のような、柔らかく粘っこい土の感触があった。そして、横を見ていると、すぐそこに細い穴が簡単に掘られた。

 なぜかすぐに身長分ぐらいの穴が掘られ、絶対そんな簡単には中に入れないはずなのに、ボクはあっさりと真っすぐ穴の中に押し込められた。まるで泥の中に杭を差し込むようにだ。

 首の下あたりまで埋められ、腕の自由も利かない状態で目の前の泥を見ていた。すると、見る見るうちに泥は乾いていった。

 夢なんだから、自然の法則など意味を成さないのは分かるが、あっという間に泥は固まった。

 それに伴って完全に身動きがとれなくなった。

 しかし、そこからボクは妙に冷静にもなった。

 あることを思い出していた。もちろん、夢の中でだ。それは若き漫才コンビ・ツービートの、「うんこ地獄」というネタのことだ。

 かなり下品なので詳細は控えるが、とにかく汚くて臭いのは仕方ないとして、顔を出してタバコが吸えるという地獄なのだからと、罪人ビートたけしはいろいろな地獄を見てきて、その中からここがいいと決める…

 しかし、いざ身を沈めてタバコを吸い終えると、はい、休憩終了。潜れ~。

 当時のツービートのギャグでいちばん好きなやつだ。ついでだが、その次が、オレの親父はまじめな男で〝模範囚〟と呼ばれていた…云々。

 夢の中の冷静なボクが、そこまで思っていたかどうか分からないが、またとにかく目の前の土の表面に目をやる。さっきまでの雨が嘘だったように土、いや泥は硬さを増していた。その中でもう全く身動きがとれなくなっている。

 夢の中の出来事をそんなに詳しく覚えていられるものか分からないが、夢の振り返りはさまざまな体験や想像も被さって成り立っているものだと思う。

 だから、ややこしい話だが、その夢の中の自分も、夢の外の自分の想像の域に入っているのかもしれない。

 完全に夢の外にいる今の自分からすれば、自然の道理に当てはまらない周辺の出来事が、逆に夢の中の自分を冷静にさせているのだとも思わせる。

 そんなことはどうでもよくて、やはりというか、いよいよというか、だんだんと息苦しさに耐えられなくなってきた。

 土の中に埋められているということと、身動きが取れないということの関係が少しずつ認識できつつあった…と、後日、夢の外の自分が分析した。

 ここで夢は夢らしい都合のよさで勝手に場面を変える。全く違う時空に、フェードアウトもフェードインもなくボクを運んだ。

 そこには幼い頃の次女がいた。若い頃の家人もいた。二人が何をしていたか、その場面の詳細は分からないが、とにかく幸せな空気が満ちていた。手前のテーブルの上に美しい絵皿が置いてあり、その色合いの美しさだけが記憶に残った。

 ところで、話を戻すと、穴に埋められるという奇妙さ抜群の夢を見たということが何を示唆するのか?だ。

 恥ずかしながら、ちょっと調べてみると、意外にも吉運を示す話が最初に目に留まった。金運が上昇していることを意味するとか……。

 しかし、当然よくない話もある。何かに失敗した自分を消し去りたいなど、自信を失っている時に見がちな夢だともいう……。そう言えば、穴があったら入りたいなどといった言葉もあるなあと思う。

 穴に埋められることと金運がよくなることの結びつきは、どこか胡散臭いが、自分を消し去りたいという話はなんとなく結びつくから恐ろしい。

 それは置いといて、冒頭にあることでこの夢を思い出したと書いた。実は、あることとは文中にあったツービートの「うんこ地獄」のことだ。ただ、なぜ「うんこ地獄」の話を思い出したのかは分からない。ときどき何の前触れもなくアタマに浮かんできたりしている。

 とにかく、不意にそれを思い出した時、たまたまこれも不意に、そのネタを思い出した夢を見た…ということを思い出したのである。

 ややこしいが、事実である。事実は小説より奇なり…というほどではないにしろ、夢の話だから、やはりどこかややこしい。さらに付け加えると、最近本当にリアルに思い出せる夢をよく見る。物語性は乏しいが、登場人物たちはとても思いがけないカタチで現れるので面白い。

 ついこの前も、ずっと長髪で服装もラフだったある知り合いが、突然坊主頭で、しかもスリムなスーツなんぞを着て現れたので驚いた。ジャズ喫茶を改造し新しいビジネスを始めたという事務所には、知った顔だらけで、皆で開所祝いでもしているような雰囲気だった。不思議だが、その知り合いは十年以上前にすでに他界している。

 それにしても、この夢劇場はいつまで続くのだろうか………


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