早朝 冬の車中にて


朝6時08分に金沢を発ち、東京へ向かうための電車に乗る。そのために5時前には起き、最近東京から直送に変えたばかりのコーヒーも飲まずに、髭を剃ったり歯を磨いたりするだけで家を出、未明の道にクルマを出す。

浅野川という小さな河川の堤防上に伸びる、勝手知ったるいつもの道だが、未明にそれほど走るものではない。夜はよく走るが、夜明け前にこの道を走るのは、早朝出発の出張時くらいのものだ。

雲ひとつない未明の空には、星がまだ輝いていたりする。冷たい透明な空気が空から川面に下りてきて、水の中へと吸い込まれていくようにも見える。まだ朝の陽光のカケラも感じられないが、暗さではなく明るさという表現を使いたくなるほど、空は微妙にやさしく見えたりしている。久々に凛とした冬の朝を迎えていた。

通称「時計台」とか呼ばれる立体駐車場にクルマを入れ、エレベーターを使わずに階段を駆け下りる。その日の体調を推し量るのにちょうどいい運動だ。途中、ちょっとリズムを崩したが、まあまあのペースで下りた。外へ出ると、とにかく寒い。

大概、少し早目に駅に着くから、改札を過ぎて階段を上り、ホームへ出る前のショップでコーヒーを飲む。この時間の電車に乗る時は他に店はやってないから、そこで飲むのがいつものことだ。

ホームに出ると、耳たぶが痛くなるくらいの冷気に晒された。今日の晴天を約束してくれる代わりの過激な冷たさに首をすくめる。電車は金沢発だから早めに来てくれる。意外に乗客は多かった。

……動き始めて40分くらいが過ぎた頃、高岡を過ぎて小さなトンネルを抜けた辺りで、左手前方に立山連峰が見えてくる。背後に、そろそろ昇りはじめようとしている朝日を、はっきりと感じ取ることができる。まだ遠くに見えるという感じだが、晴れた日の連峰のシルエットは完璧に美しい。立山連峰などと素人みたいな表現をしてしまったが、毛勝三山、剣岳と、雄山などの立山の山並み、さらに薬師岳など、主だった山の名前を頭の中で呼んだりしている。

電車はすぐに富山駅に着き、富山駅を出ると、今度は連峰が右の窓の景色に変わっていく。初めて高速で富山を走り過ぎた時、この山の位置の変化が不思議だった。単に道路が深くカーブしているだけなのだが、あの大きな山岳風景が左手から右手に変わっていくことを、すぐには受け入れられないでいた。

飛騨の山地や北アルプスの山並みから、富山には大きな水の流れが注ぎ込まれる。電車はそうした庄川や常願寺川など広々とした河原に架けられた鉄橋を通り過ぎていく。真っ白な河原に犬とともに散歩する人影。締まった雪の上を、犬が全身をバネにしたかのように撓(しな)らせて走っていく。人は首にマフラーを巻きつけ、両手をダウンジャケットのポケットに突っ込んで速足で歩いていた。雪が締まっていることをはっきり伝えてくれる足の動きだ。サクッ、サクッという靴音が聞こえてきそうだった。

白衣川という小さな河川を過ぎると、剣岳があの独特なギザギザ感を示しながら迫ってきた。朝焼けを背景にして、ちょっと斜に構えた、そのとてつもない立体感を見せつけられると、ヘビに睨まれたカエルのように心まで吸い取られていくようだ。やはり剣岳にはひたすら従順になる。その反対に、薬師岳には大らかな気持ちになれるが、剣岳はどうもおっかないのだ。

左手に日本海が見えはじめ、魚津の水族館の観覧車が目に飛び込んでくる。そして7時05分、山からの日の出とともに、客車内がくっきりと明るくなった。電車は黒部を走っている。海の対岸に見えるのは氷見から能登半島の方だろうか。向こうから見る風景を想像すると、自分がこちら側にいることを悔やんだりする。

しばらく眠った……

8時を過ぎ、電車は直江津を通って上越の豪雪地帯へと入っていた。深々とした雪原風景に、朝の強烈な日差しがあたり眩しい。しかし、久しぶりの日差し、しかも雪に反射する強い日差しは心をウキウキさせてくれるからと窓外の風景に目を向ける。

何年か前、直江津から長野行の普通列車に乗った。真冬の真昼間だったが、雪降りのために窓外の風景はあまり見えなかった。無人駅に停まると、雪を全身に被った学生たちがホームに突っ立っていて、彼らや彼女らが車内に入って来ると、蒸気が立って周囲が霞んだ。時折見える景色は、よく見ないとただの白い世界で、雪の中の起伏などは見落としてしまう。しかし、その世界は美しかった。1時間ほどの短い時間だったが、ボクにとっては、その時読んでいた星野道夫のエッセイとともに強烈な思い出となっている。

もうすぐ、越後湯沢…。窓の外を見つめているだけで、いい旅ができる。こんな旅もいいもんだ……。


「早朝 冬の車中にて」への1件のフィードバック

  1. 午前6時8分発のはくたか1号か、、、
    これに乗ると午前10時前には池袋に着けるんだよね♪
    今から13年前、これに乗って大塚にある某大手メーカーに営業に行ったことがある。
    で、その某大手メーカーを紹介してくれる手はずになってた某大手メーカーのOB氏と待ち合わせてたその6時8分に遅れそうになってさ、、、

    その朝、目覚めたのが5時25分!!!
    あわててうがい手水で身を清め神仏を祈って、女房を叩き起こして、途中赤信号を2回シカトして突っ切り、無事金沢駅改札前に到着したのが5時55分!!!
    で、そのOB氏と難なくはくたか1号に搭乗できました。( ̄・ ̄;)ジットリ

    思い出すと、、、いまだに冷や汗が出ます。

    祥稜 拝

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