雨の朝 小さな町にて


小雨の朝、輪島に向かってかなり早めに家を出る。

早めに出るのは、羽咋の滝町周辺に立ち寄りたいからだ。

八時前には完璧に羽咋にいた。そして、国道249号線を走りながらあるものを見つけた。

志賀町方面へ向かう右手、気多大社の上り口のすぐ手前あたりだ。

こじんまりとしながらも、堂々とした立派な山門が視界のほんの一画に飛び込んできた。

こういう時は、通り過ぎた直後にピーンと来るものだ。戻ってみよう…と。

ご存知の方も多いと思うが、石川県羽咋市というのは文化財の多いまちだ。

重要文化財の数では金沢より多く、石川県では最多を誇るのではなかったろうか。かつて羽咋の観光の仕事をしていた頃聞いたことがあるのだが。

そんな羽咋だから、これくらいの山門があっても不思議ではないと思いつつ、自分が初めて見るものだということにも、正直ちょっと驚く。

あとで地元の生き字引的ご意見番・F野K彦さんに聞くと、これは気多大社の随身門というのだと教えてくれた。

藩政時代の1787年、大工の清水次左衛門により建てられたものだという。

県の重要文化財で、「おいでまつり」という祭礼で、馬に乗った神主が、町を回った後だろうか、勢いよくこの門を走りぬけ大社に戻る。その際に近くの住民らが道路に塩をまき迎えるということだった。

それにしても、この辺りはやはり文化的匂いがプンプンする。

その門をじっくり見ていたら、藤井家にも久しぶりに寄ってみたくなった。

藤井家は、民俗学者・国文学者であり、釈迢空(しゃくちょうくう)と号した詩人・歌人でもあった、折口信夫が一時住んでいたという旧家だ。もう空き家になってから久しいが、近くの親戚の方が管理されているという。

ちょっと前に新聞で紹介され、少しは名前が知れたかとも思うが、やはりまだまだ知らない人が多いだろう。

正直、折口信夫自身に強く惹かれているわけではないが、周辺の空気や家そのものに興味がある。

いつもなら気多大社の駐車場にクルマを止めて歩くのだが、さすがに時間が乏しく、家の近くまでクルマで行かせてもらう。

狭い道に恐縮しながら、なんとかクルマを止め、開けられてある門から前庭に入った。

ここへ初めて来てから何年が過ぎただろうか。観光資源の取材で外観だけ見に来たのだが、その頃は大して評価していなかったと思う。

しかし、その後、小林輝冶先生(現徳田秋声記念館館長)の話などを聞いていくうちに、それなりの価値観が生まれ、さらに地元のF野さんやO戸さんたちとの親交が深まるにつれ、藤井家の存在はぐっと身近なものになった。

貴重な資料などはほとんど残っていないらしいが、小林先生もその価値を認めていた。

藤井家を記念館的に開放活用しようなんて、そんなこと考えるのナカイさんぐらいだよと言われるが、暖かくなったら、中をゆっくり見せてもらうことにしており、三十年ぶりという先生もお連れするつもりだ。

いつもの滝町の方へと向かうことにして、再び国道に戻り、そのまま海沿いの道へと入った。

汐さい市場・滝みなとは、やはり開店前。

前日、O戸さんから九時開店と聞いていたので諦めてはいたが、何となく店の前にクルマを止めて、漁港の方を眺めたりした。

一宮の海岸も静かだった。まだ小さな雨が落ちていたが、波は穏やかで、地元の人だろうか、傘をさした男の人が独り砂浜を歩いていた。

もう一度、汐さい市場・滝みなとへと行ってみたが、まだ九時までには時間があった。

有料道路に戻り、しばらく走ると雨も完全に上がっていた……

(この続きは、次号に…)


「雨の朝 小さな町にて」への1件のフィードバック

  1. O戸サンから、さっそくメッセージが。
    今度は、日本最古の塩田跡地を見に行く予定。

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