漕艇場あたりの、のどかな風景


何度か書いてきた河北潟の話の中で、どちらと言えば、いつも干拓されてしまったことへのセンチメンタルな気持ちを綴ってきたように思う。

しかし、関心が全くなかった時は、その言葉どおり、どうでもよかったのだが、一度関心を持つようになるとスタンスは変わる。

河北潟を干拓地として見るようになったのも、そのことに拍車をかけ、最近は身近な存在として、そのいいところを探そうという気持ちにもなっている。

そんな中で、少しマンネリ化してきたかなと思っていた矢先に、漕艇場の存在を知った。

いや、知ったというのはかなり前からで、そこへ初めて行ってみたというのが正しい。

内灘からすれば対岸になる津幡町の、水路のように残された水域がその場所だ。

九月のはじめで、広い田園地帯では稲刈りが始まっていた。

その中のメイン道路から細い道に入ると、生産者の人たちのクルマが道の脇につながり、そこを通るにはかなりの遠慮が強いられる。

しかし、漕艇場に向かうという大義名分があるということを、生産者の人たちは認識されているのだろう。

誰も変な目でボクを見ない。それどころか、首から下げたタオルで汗を拭きながら、刈り取り作業に精を出しておられる。

学生たちが一生懸命に練習しているということも、あの人たちは十分に知っているのかも知れない。

意外と狭い駐車場にクルマを止め、外に出た。

稲刈機の音だとばかり思っていた、エンジン音が頭上からも聞こえる。

数台のクルマが止められたグラウンドの方で、ラジコンヘリだろうか、かなりのハイスピードで飛び回っている。

垂直に下降したりして、アクロバット的な飛行を楽しんでいるのだろう。

ちょっとした土手を上ると、芝生の広い空間が目の前に現れ、その向こうが漕艇コースの水域、そして高いものなど何もないその先には、すぐに白い雲を浮かべた青空がある。

思わず、オオッと小さく唸り、すぐに土手を駆け下りた。

一角に、釣り人が二人だけ。

さっきのヘリも無事着陸したのか、周辺は物音ひとつ聞こえない。

いや、厳密に言えば、何か音はしているのだが、それは音とは認識させない音なのだ。

水場や芝生などの植物のせいなのだろうか、音がみな水中や地中に吸収されたのではと思わせる。

ゆっくりと水場に近付く。

波のない静かな水面に白い雲を浮かべた青空がそのまま映っている。

釣り人たちの話し声が、ようやく微かに耳に届く。

それなりに大きな声で話しているようだが、不思議にもその声は聞き取れない。

 

いいところを見つけたと、すぐに思って、かなりの度合いで嬉しくなった。

さっそく、芝生の切れ目に沿って散策を開始。足元に白い小さな花が一輪。

気分は、稲見一良の小説「花見川のハック」に出てくる冒険少年。場所もピッタリだ。

それにしても暑い。気象用語的には「暑い」だろうが、感じられる空気は「熱い」の方が合っていると思う。

そんなことを考えながら、とにかく歩く。

芝生がかなり汚れているのは、数日前から続くゲリラ豪雨のような夕立があったからだろう。

水かさが芝の上まで上がったのに違いない。

その臭いが懐かしかった。

子供の頃、水の汚さでは定評があった河北潟。

今も決してきれいとは言えないだろうが、岸辺の土が漂わせる臭いは、こんなふうだったなあと思い出す。

それにしてもの暑さなのだが、静けさが暑さを少しだけ負かしてくれる。

と、思ったところへ、どこか遠くから声が聞こえた。

あたりを見回すが、すぐに声の主がわからない。

ようやくわかったのは、反対側の岸辺近くで五人乗りのボートが滑って行くのを見つけた時だ。

「そんなに後ろにのけ反らない方がいい。力はそんなに変わらないし、後半疲れるよ」

「さあ、ここから最後、気持ちを一つにして行こう」

コーチだろうか、最後尾に座ったメンバーが声を出している。

しかし、水をかく音など聞こえてこない。

ボートは静かに水面を滑っていき、そのうち視界のはるか遠くへと去って行った。

特に何をするでもなく、パーゴラのあるベンチに腰を下ろして、得意のボーっとする状態に入った。

何度も書くが、とにかく静かなのである。

音や声がしても、まるでTANNOYの大きなスピーカーで聴くチェロの演奏のような感じ(?)で、まろやかなのだ。

一時間はいただろうか、さらなる水路の奥への探検を次回のお楽しみにして、クルマに戻ろうとした。

ちょうど、学生たちの別のチームが水路に出るところだった。

実際に漕ぎ出すところを見たいと、土手の上から見つめた。

担いでいたボートが水面に置かれ、そのボートに向かって全員がアタマを下げ、何かの儀式が簡単に行われる。

いいなあと素朴に思い、彼らを見送った。

それにしても、暑かったが、そのことをカンペキにブッ飛ばす、いい時間だった………


“漕艇場あたりの、のどかな風景” への2件の返信

  1. ちょっと離れているけど、
    近いと言えば近い場所。
    涼しくなったら、行ってみようかしらね・・・

  2. 中居様にお願いがございます。
    河北潟の漕艇場のボートを担いでいるお写真をお譲り頂けないでしょうか?
    何と厚かましい非常識な変な人とお思いになられたと思いますが、どうしても欲しいのです。
    昨年、河北潟の漕艇場の写真か、絵画を探して居りましたのですが、美大生の作品展や、アトリエ等も見て回ったのですがご縁がございませんでした。いつぞやは、ジャズのレコードの事でご相談した事がございます。覚えておいでだと嬉しいのですが、亡くなった弟のレコード(殆どがジャズ)2〜3000枚程有ったのですが、その件につきましては、もっきりやの平賀様に相談してみて、金沢工業大学のライブラリーに寄贈出来る事を知り、お蔭様で解決致しました。今回メールさせて頂きましたのは、知合いが昨年の5月に開院しまして、その時に漕艇場の写真、又は絵画を探して居たのですが、ご縁が無く・・・でも一年経ってもやはり諦めきれないので、本当に厚かましいおばさんですがお願いです、お譲り頂けませんでしょうか?
    住所は金沢市泉野出町一丁目14-6です。電話は090-2033-8608です。ご連絡お待ち申して居ります。

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