河北潟の端っこを探検する


 

河北潟の端っこで見つけた漕艇場から延びていく水路に、何だかとても興味が湧いていた。

そして、その第一次探検の時を迎えたのは、十月の下旬に入ろうかという休日の朝。

と言っても、時計はもう9時半を回り、晴天と同時に気温も少しずつ上昇の気配を見せていた。

すでに水面には、多くのボートが浮かんでいて練習が始まろうとしている。

一線に並んだボートに、その奥のボートからコーチらしき青年が指示を出している。

よく見ると、ボートの漕ぎ手たちは中学生みたいだ。

最初に女子から、そして男子へとスタートの指示が出される。

水面を滑っていくボートを見ているのはなかなか気持ちがいい。

 

しかし、今日はじっとそんな光景を見ているわけにはいかないのだった。

すぐにパーゴラのある土手に上がって、そのさらに上に伸びている道らしき場所に足を踏み入れる。

刈られた草の感触がトレッキングシューズの底から伝わってきて嬉しくなる。

この状況は、自分の中に微かに残っていた冒険心みたいなものに火をつける。

そんな大袈裟な…と思われるかもしれないが、そうなのだから仕方がない。

まっすぐに伸びた土手の道。

空は青く、10月も半ばを過ぎたというのに、雲はまだ入道雲のカタチで白く浮かんでいる。

左手は、水路沿いの葦の原、右手は刈り入れの終った水田。

申し分ない。ほぼカンペキだ。

しばらく歩くと、水門があり、その上に上ってみる。

大して高くもなく、別に風景が大きく変化して見えるというほどでもないのだが、こういう場合は一応、その高場から見下ろすという儀式が必要なのだ。

 

葦原は少しずつ幅を広げ、水路が視界から消えていく。

しかし、すぐ近くに水の流れる音がする。それも豪快にだ。

しばらくして、それが風にそよぐ葦たちの擦れ合う音だと分かった。

なんと凄いのだろうと思いながら、かつて一世を風靡した時代劇『木枯らし紋次郎』を思い出す。

三度笠に長い楊枝をくわえ、風を切って歩いて行く紋次郎の姿が浮かんでくる。

紋次郎が行くところは、いつも木枯らしが吹いていた…

土手のすぐ下で、南天の赤い実が無数に風に揺れている。紫色の花たちも一緒だ。

水路は完全に視界から消えた。

仕方がないので、水田の方に目を遣ると、その広大な田園風景にも足を止めてしまう。

再び目を葦原の方に向けながら歩く。

何という名前なのかも知らないが、木が一本、斜に構えて立っている。

何の目的でそうさせられたのか、鉄柱も立っていたりする。

目を下に向けると、意外なものを見つけた。

小さなアケビだった。

かつて、ゴンゲン森で多く見られたアケビだったが、正直好きではなかった。

唇や舌に当たるあの感触も、中途半端なあの味も馴染めなかった。

他の木の実などは何でも食べて育ったくせに、アケビだけはなぜかダメだったのだ。

他の連中が美味そうに食べているのを見て、自分が仲間外れになったような、そんな気持ちにもさせられた。

そんな子供の頃のことを思い出しながら、アケビの写真を撮った。

先で、道が右に折れているのが見えてくる。

水路も見えてきて、右手の道に沿って合流してくる水路とT字型に交わっているのが分かる。

その水辺で、いきなり釣竿を持った若者の姿を見つけた。

こんにちわと声をかけると、若者は驚いたように振り返った。

ブラックバスや雷魚が釣れると、若者は話してくれた。

もちろん、キャッチ&リリースなので身軽だ。

その若者から、今まで見てきた水路が「東部承水路」という名前であることを教えられ、

さらに、右手に延びている水路は「津幡川」であることも教えてもらった。

その川は、名前のとおり、津幡の奥の山間から流れてきている。

そして、東部承水路はそのまま北へと延びていき、途中でああなってこうなってと詳しく説明されたが、イメージだけが広がっていき、想像は青い空の中へと吸い込まれていく…

 

ヤマカガシに気を付けた方がいいですよ。とも言う。

ええ、あの毒のある?と聞き返す。

青大将ならまだいいけど、ヤマカガシは咬みついてくる怖いヘビだ。

時折干拓地の水路の近くに黒くて太いのが寝そべっていたりするのを見た。

あとで分かったのだが、あれも黒いヤマカガシなのだそうだ。

対処方法を知らないから、咬まれたら大変だ。

若者は、竿を肩にしてゆっくり土手に上がってきた。

ボクは、いい歳をしてこの辺りを歩いて回りたいのだがと伝えた。

若者は驚いた様子でボクの顔を見ると、でも、道らしきものはこの辺まででしょうと答えた。

とりあえず、今日は津幡川沿いに少し行ってみようと思い、風が気持ちいい土手の道を進んだ。

場所を変えます…と言った若者は反対方向に歩いて行く。

ヤマカガシのことがアタマに浮かんで、足元の草むらに敏感になった。

ススキの穂が太陽を受けて光っている。

上流の先にある橋の下にも、若者が独りで竿を垂らしていた。

さっきの若者が、この辺りは結構釣り好きには知られていますよと言った時、知り合いの釣りバカが、かつて最近河北潟にはまってますと言っていたのを思い出していた。

しかし、この辺りを、ただ歩いて回りたいだけというただのバカは、オレぐらいかな?とも思う。

歩いていた時間はたったの一時間半ぐらいだろう。

うっすらと汗をかいてきて、もう一度空を見上げる。

申し分ない気分に浸りながら、もう少し事前研究が必要だと反省。

冬、積雪のある時季にスキーを履いてトレッキングする楽しみも見えてきた。

それにしても、恥ずかしくなるほど楽しい。

その日の夜は、本棚から取り出した『花見川のハック』を久しぶりに読みたくなったのだった……

 


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