“寿”のテーブルに座る


 全くもってカンペキに、どうでもいい話だ。

 実を言うと、ボクの正式な名前は「寿(ひさし)」と書く。

 世の中的には、かなりおめでたい場合に使われている漢字なのである。

 昔、寿司屋の寿だからと、「中居・す」さんと呼ばれたことがある。

 言った本人もかなり困窮していただろう。

 これがホントの「呼び捨て」だと、その時発作的に思った。

 ところで、宴席に出ると、よく「寿」のテーブルというのがある。

 しかし、これまでその名のテーブルには、一度も当たったことがなかった。

 それが、つい先日のことだ。

 苦節?五十数年、生まれて初めて、自分の名前を冠したテーブルに着くことになった。

 くじ引きみたいなことをさせられたわけではなく、事前に決められていたのだ。

 ひょっとすると、ボクの名前を見て、この人は是非「寿」のテーブルについてもらおうと考えたのだろうか。

 いや、そのようなことはありえない。

 そんなことを薄らぼんやりと考えながら、三回ほど名札の紙切れを確認した。

 そして、テーブルを見つけると、一応、さりげない顔をして椅子を引いた。

 座っている間も、テーブル上に無造作に置いた名札が、やたらと気になった。

 何度、目をやったことだろう。

 幸いにも、その上に何かがこぼされたりすることもなく、白い紙きれは、閉宴まで置かれたところにじっとしていたのだ。

 帰り際…、その名札をそっとポケットにしまったのは言うまでもない。

 その名札を家人に見せ、家人からバカにされたのも言うまでもない。

 ニンマリしながら飲み直したのも言うまでもなく、

 数日たった今、まだ我が家のテーブルの隅に置かれているのも、当然、言うまでもないのである……


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