湯涌江戸村「ケムダシ」談


 金沢の山里・二俣で、19世紀の初めに建てられたという旧S田家屋敷。

 今でも二俣で続けられている大らかな紙漉きの、その源を示すお屋敷だ。

 まだ公開されていないが、かつて旧江戸村時代に隅々まで見せていただいていて、今回化粧直しをしたその外観に驚いた。

 さらに驚いたのは、屋根の正面に作られているソレ(写真)。

 曲線的な、というより、カンペキに曲線形の優雅な美しさに見惚れる…

 新築の頃にはこんな風だったのかと思うと、200年近く前の二俣辺りの空気が欲しくなる。

 で、村長のT屋先生に「アレは、何て言うんですか?」とお尋ねした。

 アレとは、つまりソレのことである。

 すると先生が、「ケムダシだよ…」と言われる。

 「それって、煙を出すという意味の…?」 「そう…」。

 はっきり言って、あまりにも安直な答えだったので、こっちは半信半疑気味。

 このまま引き下がってはいけないのだと思い、もう一度お聞きした。

  「あそこから煙を出すから、煙出し(ケムダシ)なんだよ…」

 先生は何でもないような顔で、何回同じことを聞くのだと言わんばかりに答えられた。

 そう言われれば、何でもないことなのだ。

 煙を出すから「ケムダシ」で別に悪いわけではない。

 文句があるなら、表へ出ろ! と言われる前に、すでに表にいる。

 そんなわけで、世のモノゴトは至って簡単な仕組みで出来ているのである…ということを、あらためて痛感させられた、春の晴れたある日の、午後のやや遅い時間の、ほんのひと時の出来事であったのだ。


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