観葉植物と「卒業」と抜歯と


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居間に観葉植物を置いてから一ヶ月ほどして、その木が「ベンジャミン」という名前であることを知った。

なぜ知ろうとしたのかというと、あまりに落葉が多く、その対処法を調べるために木の名前が必要だったからだ。

そして、落葉に対する処置はすぐに分かったのだが、その「ベンジャミン」という木の名前が気に入ってしまった。

ベンジャミンは、映画『卒業』でダスティン・ホフマンが演じた主人公の名前だ。

たしかベンジャミン・ブラドック。スペルは、Benjamin Bruddockだったろうか?

何を隠そう(と言うほどでもないが)、大学一年になったばかりの6月だったと思う、

ボクは新宿の小さな映画館(たぶん「名画座ミラノ」?)でその『卒業』を見た。

それまでああいう系統の映画にはほとんど興味を持てなかったのだが、何となく大学生になったのだからみたいな感じで見てしまった。

その後、何を血迷ったか、紀伊國屋へ行き、洋書コーナーで原作を買い、辞書なし読みをした。

英会話をマスターして大学を出ようと、当時は真剣に考えていて、この時の真摯な気持ちが続いていたら人生変わっていたかもしれない。

一本300円くらいだったと思う。

ボクはそこで寅さんシリーズを、一度に6本連続して見たことがある。

5本目あたりから、同じ失恋ばかり繰り返す寅さんのどうしようもないバカぶりが許せなくなり、7本目の途中で帰った。

『男はつらいよ』10本立てという、今では考えられない企画で、10本立てでも値段は大して変わらなかったと思う。

ついでにそういう映画館の話をする。

兄弟が多く、しかも末っ子だったボクは幼い頃から洋画好きの兄の影響を受け、映画雑誌「スクリーン」や「映画の友」「キネマ旬報」などからませた情報を数多く入手していた。

小学生だった頃から、リアルタイムに上映されていた映画は連れて行ってもらっていた。

たとえば、バート・ランカスターなど錚々たる俳優たちが揃った『プロフェッショナル』とか、ジョン・ウエインの『リオ・ロボ』、それにクリント・イーストウッドやジュリアーノ・ジェンマ、フランコ・ネロらのマカロニウエスタン。ゲイリー・ルイスのコメディ。数えあげたらきりがないほどの映画を見ている。

しかし、もうすでに上映期が終わっていたものは、兄からストーリーや、サウンドトラックなどを聞かされるだけで、それでも好奇心旺盛の少年には強く心に響くものがあったのだ。

そんな話だけ聞いていた映画の数々を、学生時代に実際に見て回った。

特に兄が大好きだった西部劇などのアクションものは、その頃初めて見に行き、初めて見るのに懐かしさを覚えると言った不思議な感覚になっていたのを覚えている。

『シェーン』や『OK牧場の決斗』、『真昼の決闘』、『リオ・ブラボー』など、数えたら切りがないほどだが、幸か不幸かほとんどストーリーを先読みできた。

さらにあの『ローマの休日』もその頃、300円で見た記憶がある。

あれはひょっとして二度目だったかもしれない。

ただ、自分が生まれた年に初上映された映画の中の、オードリー・ヘプバーンのあの容姿、声、話し方、仕草、そして、グレゴリー・ペックとのラストのキスシーンなど、すべてが胸に迫るばかりだった。

ボクの人生観を変えるほどだった(…かも知れない)とも言っていい(…かも知れない)。

話を『卒業』に戻そう。

と思ったが、本題は観葉植物である「ベンジャミン」である……

ベンジャミンのよく落ちる葉が気になり始めた頃、ボクの歯医者行きが決まった。

葉っぱの「は」と、虫歯の「は」が繋がった…のかもしれない。

予約から10日ほどが過ぎた休日明けのお昼前、ボクは金沢竪町のMさんという歯科医院を訪ねていた。

虫歯になってから放置してきた親知らずが、原形を崩してギザギザ状(それほど大袈裟ではないが)になり、それが舌に触れて痛かった。

その場でギザギザを少し削り、それから数日後、その歯つまり親知らずを抜いた。

親も知らないほどの奥歯なのだが、持ち主の本人も初めてその姿を見た。

どこがどうなっているのか? 説明を聞きたいと思った。

しかし、その惨めな姿と対面した時にはもうどうでもよくなっていた。

こんなふうになるまで見捨ててきた自分の罪深さを恥じたのだ……

映画『卒業』の中で、ラストに教会から一緒に逃げ出すエレーヌ(キャサリン・ロス)は、ベンジャミンのことを「ベン」と呼んでいた。

突然また話が戻ったが、ベンが教会のガラスを叩きながら、「エレーヌ、エレーヌ」と泣き叫ぶと、エレーヌも「ベン」と答える… 感動的なラスト・シーンへと向かう場面だ。

しかし、我が家では居間のベンジャミンのことを「ベン」とは呼んでいない。

実は今日あたりからそうしようかと思っているのだが、家人たちの反応が気になっている。

そんなわけで、ベンジャミンの葉っぱ落としグセも、処置後はだいぶよくなってきた。

初夏に向けて、新しい葉っぱの色も爽やかな緑で気持ちいい。

照れ臭いが、今夜から「ベン」と呼んでやろうかな………

 

 


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