無花果とミミズと少年の頃の夏


無花果

6月なのに、真夏のような熱気が支配する午後だった。

山里の田園風景をぼーっと眺めていると、急に無花果の匂いがしたような気がして周囲を見回した。

が、それらしきものはどこにもない。

無花果の匂いが脳を刺激すると、反射的に小学校の頃の夏休みを思い出す。

近所にあった無花果の木の下を小枝で掘って、ミミズをかき出し、魚釣りの餌にしていた。

ミミズは十匹くらい獲れると十分で、餌がなくなればそれで終わりという釣りだった。

今でも無花果があまり好きではない。

それは、木の根っこの部分に、ミミズがいっぱいいたからなのだろうと思う。

家を建ててからの最初の夏、朝になると砂の上に物凄い数のミミズたちがいるのを見た。

不規則に移動してきたその形跡が、砂の上にはっきりと残されていた。

特に二階から見下ろしていたから、それは鮮明でもあった。

しかし、彼らは徐々に昇ってくる太陽の存在を知らないでいたのか、気温の上昇とともに動かなくなり、そのまま干からびていく。

毎日それが繰り返されると、砂の上はミミズの干物だらけになった。

夥しい数に不快感が募り、休みになるとまた砂の中へと返したりしていた。

そんな夏は長く続かなかったが、それから何年かして、家人の実家から無花果の枝を一本もらうことになった。

挿し木しておくと、それは腰の高さほどまで伸び、その段階でついに実を一個だけつけた。

しかし、特に大事にしていたわけでもなく、いつの間にか木は弱っていき、その後何かの機会に切り倒している。

その小さな無花果の木を見る度にも、いつもミミズのことがアタマに浮かんでいた。

居なくなっていたミミズたちが、またその無花果の木の下に集まっているのではないだろうかと思ったりした。

 

無花果の匂いは、少年の頃の夏へとつながっている。

特に男の子から少年へと変わっていくことの、ひとつの証としても、ミミズを平気で手で掴み、ビニール袋に入れては河北潟へと通っていた思い出が強く残っているのだろうと思う。

それにしても、あの熱気の中で感じた無花果の匂いは、どこから来たのだろうか………


「無花果とミミズと少年の頃の夏」への1件のフィードバック

  1. 夏がお好きなのだなあ~
    ということが伝わってきました。
    いろいろな夏がありますね。

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