hisashinakai
夏はいつも凄かったのだ。
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金沢と能登をつなぐ「のと里山海道」が、
まだ「能登有料道路」と呼ばれていた頃の話だ。
終点穴水の少し手前で、道路上に光る黒い点を見つけた。
次の瞬間、その光る点は放射線状に広がったように見え、
すぐに弱い光になった。
バックミラーで後続車のいないことを確認すると、
ボクはゆっくりとブレーキを踏み、そしてクルマを停めた。
黒く光った物体は静かに、そしてかすかに動いていた。
クワガタだと分かるまでには、それほどの時間も要せず、
敢えて近づこうともせず、
その黒くて弱い光のゆっくりとした動きを見ていた。
夏は凄いなあ………
その時、そんな言葉がアタマに浮かんだ。
熱いアスファルトの上をクワガタが動いてゆく。
そのクワガタが、光を放っている。
そして、ボクはその光景を見ている。
その先には陽炎が、はっきりと目に見える。
額には、うっすらと汗がにじんでいる。
照り返しがきつい。
目をずっと開けているのは少しつらかった。
やっぱり、夏は凄いと思った。
そして、なぜか嬉しくなった。
足を開き、膝に両手をおいた。
熱くなったカラダが、またさらに熱くなっていく。
しかし、それを楽しんでもいる。
やっぱり、夏は凄いのだ。
夏の凄さが、静かにだが、ココロを躍らせている。
あれからもう何年も過ぎてしまった。
ただ、ずっと昔の、夏の一瞬がまだ生きている………