🖋「…で」と「…が」について


 仕事場近くにできた図書館に、よく出入りするようになった。

 自分にとってはちょっと大きくて、且つおしゃれすぎて、元来の素朴な図書館そのものが好きという自分なりの感覚からすると、少し違和感のある施設だ。蔵書の数もそれほど多いという印象はない。

 しかし、なぜか面白い本と出合ったりするので、ちょっと外出する際に寄ったりする。館内にいる時間は長くても15分くらい。読んでみようと思った本を見つけるとすぐに手続き(機械だ)し、そのまま出る。

 これが本屋だとそう簡単なわけにはいかない。もともと決めてある本なら早いが、いい本がないかなあと探しながらだと、仮に遭遇したとしてもすぐに購入には至らない。やはり、あれこれと別な本を探してみたりすることが多い。決めていた本でも、本屋で立ち読みしているうちにやめようかなということにもなったりする。

 図書館はその点便利で、ボクの場合は借りてきて面白くなかったらすぐに交換に行く。

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 今借りているのが、『珈琲が呼ぶ』という片岡義男の比較的というか、かなり新しいエッセイ本だ。今まで縁のなかった作家だが、たぶんこのタイトルが目に入って来なかったら手に取ることもなかっただろうと思う。

 出だしから面白かった。めずらしく延長して読み続けるのではないかと思っている。ときどき、図書館で借りた本が面白くなり、すぐに返却して本屋へ買いに行くということもあったが、たぶん今回はそこまでしないだろうと思う。

 この本の最初の方に、『「コーヒーでいいや」と言うひとがいる』というタイトルの話がある。

 この話がなかったら、ごく普通に読み流していくだけだったかもしれないが、まずこれにハマった。いや、ハメられたというべきか…

 たとえば喫茶店でコーヒーを注文する際や、訪問先で飲み物をいただく際に、「コーヒーでいい」と言うのと、「コーヒーがいい」と言う場合のニュアンスの違い。

 文の内容について書き始めると長くなるので省略するが、興味深い分析?で、ここに出てくる「で」と「が」の違いや、「いい」について解説されている。正直言ってかなり好きなパターンであり、その意味でも何度か読み返してしまった。

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 ときどき我が家でもこれに近い出来事が発生する。

 それは晩飯前のやりとりで、酒かご飯かと聞かれ、たまに「ご飯でいい」と答えてしまうと、空気が一瞬のうちに変わるという出来事である。

 ご飯とコーヒーとは違いもありそうだが、言葉の表現は簡単そうでむずかしい。

 「ご飯でいい」ではなく、「ご飯がいい」と言うべきだ…とガツンとやりこめられてしまう。

 自分でも納得するが、ご飯の後ろが「で」の場合、そこにはどこか投げやりでネガティブな一面が潜んでいると思われる。

 本当は飲みたいけど、仕方なくご飯にするというココロのぶれがにじみ出ている。そして、そのことは完全に否定できない。

 しかし、「が」の場合は、最初から当然ご飯にしようと思っていたのだというポジティブさが歓迎され、はっきりと対応が違うのである。

 ご飯は日本人の主食でもあり、これは正しい感覚なのかもしれない。

 先日もそうした失敗をしたあと、「やっぱり、ご飯がいいなあ」と言い直したら、「別に飲んでもいいよ」と言われた。   

 しかし、この場合、「じゃあ、飲むかな」にはならない。

 話は変わるが、今乗っているクルマのETCは、エンジンをかけると「カードが挿入されていません」と“普通に”語りかけてくる。そして、こちらとしてはその語りかけに対して、やや強い調子で思わず「分かっています」とか、「承知の上です」と答えたりする。

 この場合、ETC側としては、カードは挿入されていて当たり前だという立場にあるみたいだが、そうは思わない。カードを使わない時は挿入されてなくてもいいと思う。

 だから、正式には「カードは挿入されていません」と語りかけるべきだ。この場合は、「が」と「は」の違いだが、受け取り方は随分ちがう。それ以上に、今この時にそのことを語り掛けるべきであるかを考える必要がある。

 余計なお世話的に付け加えると、本来ETCの場合は、「これから高速道路を利用される場合は、カードを挿入してくださいネ」といった具合で「を」を使うべきだろう。最後の「ネ」はどうでもいいが…… 

 ついでに付け加えると、カードを挿入したままエンジンを切ると、「カードが残っています」と語りかけてくるのもおかしい。では、やはり入っていない状態が正常と認めていることになるのではないか?

 なんだかややこしくなってきたが、そういうわけで、一冊の本から始まった妄想が、楽しい時間を創り出してくれた?という話だったのであった…………


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