深田久弥山の文化館にて~初秋


 

クルマの中はまだ夏だったが、クルマを降りて、見上げた空は秋だった。九月の下旬だから、暑いと言ってもさほどではない。日陰に入れば、風も気持ちいい。

深田久弥山の文化館には約一ヶ月ぶりだろうか。一ヶ月前は、離れの喫茶室にいても、窓からは一切風らしきものは流れて来なかったのに、今は涼しい風が入ってくる。深田久弥の会の事務局長さんもしきりに、いつもの夏だったら風が入って涼しいんだけどねえ…と言われていたが、そんなことなど想像できないほどに、前回来た時はじっとしてもひたすら暑かった。

 デッキのテーブルが変わっていた。丸い大きなサイズのものに変っていて、ちょっとした会合や、大皿を並べた食事会でもやったのだろうかと想像させる。

今回は山中の方からの寄り道なのだが、同行しているM川にどうしても見せておきたくて来た。イベント会場づくりのプロであるM川に見せておくことで、今後主催者になるクライアントへサテライト会場としての提案もできるからだ。M川は早速、物置にある上品そうな椅子を見つけ、モノはあるとほくそ笑んでいた。

ギャラリー展示的な空間になっている「聴山房」も見せたが、えェーとか、うゥーとか言いながら、フムフムとそれなりに、ここはこうして、そこはああしてと、独り言らしきことをつぶやいていた。それにしても、聴山房の室内も涼しい。ガラス越しに見る庭も、今はゆっくりと心を落ち着かせて見回せる感じだ。一ヶ月前の冷房なし状況を思うと、今は極楽のような空間だと言っていい。畳の上に寝っ転がってみたい気持ちにもなったが、M川の手前やめた。

 その日は昼からの出勤になっていて会えなかったが、館の事務長・M出さんが前々から言っていた背後の広いスペースは、草刈りも済ませすっきりとした空間になっていた。大木が日陰を作ってくれて、そこでも何かできそうだ。イメージが湧いてくる。

しかし、イメージを膨らませながらも、小さな蚊にまとわり付かれて往生もした。身体のあちこちが痒かった。

 

 

山の文化館展示室につながる回廊も、何だか秋めいて落ち着いた雰囲気だった。 この場所は、これからだな…と実感した。

加賀市には残してきた宿題らしきものがたくさんある。忙しく走り回っていた20年ほど前に見ていたもので、その美しさやのどかさや、さらにうまく表現できないいくつかのものが、不意に目に飛び込んできたり、アタマに閃いてきたりする。そんな自分がどこか面白いとも思うが、それなりに自分らしい原点を思い返してくれそうでもあって、足を運びたくなる。

M出さんによろしくお伝えくださいと事務室にあいさつし、館の玄関でパンフレットやグッズなどを見ていたM川を促し、外に出る。

空はますます秋めいて、一層涼しげだった。が、クルマに乗ろうとすると、クルマの中にはまだ夏が潜んでいた・・・・・・


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