山里の陽だまりと、読本と、春眠と
福光からの帰り道、持って出ていた本を読もうとクルマを止める。
日差しも温もりも春の兆し。
運転しながら、瞬間的に目に飛び込んできた光景が、まさにその雰囲気に合う場所であると感じさせた。
早春の陽だまりを求めての、三連休最後の日に訪れた短い自分時間。
できるだけそれらしい雰囲気を自分自身にも課して、短い時間を楽しもうとしている。
久しぶりだった医王山富山県側山麓の道も、飛越の山並みにまだまだ残雪が光っていて、手前の青麦畑やこれから始動する水田とのコントラストが美しかった。
IOX-AROSAのゲレンデにも十分な残雪。
来週は、立山山麓へ出かけるつもりでいる…と、敢えて自分に言い聞かせたりする。
無造作に部屋の壁に立てかけられ、静かに息を殺しているテレマークの板たちのことを思う。
彼らにはまだ十分な楽しみを与えていない。
ただでさえ古い道具たちだ。
このまま老いていかせるには勿体なく、自分自身を責めたりもする。
陽はかなり西に傾いてきたが、さすがに春が近づいていると見えて、一日は確実に長くなっている。
クルマのエンジンを切って、まずは周辺を散策する。
小川が流れ、そこに付けられたコンクリートの橋を渡ると、広くはないが美しい水田の空間がある。
その手前には素朴な小屋が建てられていて、それがまたいい雰囲気を醸し出している。
ただ近くまで来ると、トタン葺きだったりして少しがっかりした。
畦道の草はまだ秋に枯れたままの状態で、雪の下で冬を過ごしてきたものたちだ。
雪の重みに耐えた後の乾いた草の感触もなぜか懐かしい。
しばらく歩き、写真も撮って、何度か振り返りながらクルマに戻る。
フロントガラスいっぱいに、今見ていた風景が広がるようにクルマを移動。
シートをゆったりめにして、先日買った三冊のうちの一冊、『北への旅』(椎名誠著)を開く。
分厚い。さらに、文庫だが紙質が重く手応えも心地よい。
五十二ページまで一気にいく。といっても、四十二ページまでが写真。
カメラマン・シーナ氏のちょっとクールで温かい写真に集中してしまった。
話は、いや文章は津軽半島から始まり、いつものようにテンポよく進む。
本当はキルギスへ行く予定だったが、なぜか津軽へと向かう。
そのあたりの事情は読めば分かるので省略。
五能線というローカル線で、五所川原に着いたところから本題に入っていくが、そのあたりのことも読めば分かるので省略したい。
とにかく、夜になってコンビニのあんちゃんから聞いたうまいラーメン屋で体を温め、その温もりが冷めないうちにホテルに戻って寝たというところで序章は終わった。
一段落したところで休憩。最近疲れ気味の目を休めようと、フロントガラスの光景をもう一度眺める。
そして、そのまま眠ってしまった。
春の陽だまりの中で活字(写真もだが)を追うというのは、最終的にこうなるのが正しい。
しばらくだったが、目が覚めるとかすかに汗をかいていた。
時計は五時少し前。クルマを降りて、身体を伸ばす。
空気は少し冷えてきた。が、春がそこにあって気持ちが柔軟になっているのは間違いない。
冬はすでに遠い空の果てから宇宙のどこかへと消え去っていったのだと、宮沢賢治的?に思ったりもする。
やはり、春はいいのかも知れないのである……