冬の朝の小さな奇跡
2011年12月24日の朝。
こういう言い方が正しいのか分からないが、クリスマス・イブの朝である。
冷え込み、目覚めると天気予報どおりに雪がうっすらと積もっていた。
土曜の朝でもあった。
いつもより遅く起き、階下の居間のカーテンを開ける。
そして、外の光景に一瞬目を奪われた。
そして、しばらくなぜこのような光景が起きているのかと考えた。
と言っても、ほんの数秒のことだった。
すぐに状況を飲み込むことができたのだ。
カメラを手にすぐに外へ出る。
わが家の方へと差し込む朝日は、ずっと東方へと目を向けた北アルプス北部の稜線から放たれてくるものだ。
富山平野の上空をまっすぐに伸びて、石川との県境の山並みも軽く通り越し、河北潟干拓地の平原上を経てやってくる。
夜明けからはすでに三十分ほどが過ぎていただろう。
朝の太陽は稜線の少し上へと昇っているが、それでも十分なくらいの鋭い角度で光を放っている。
その時の空は、ほとんど黒に近い濃いねずみ色に全体を被われていた。
そして、稜線上にはわずかな雲の隙間。
朝の太陽はちょうどその隙間の真ん中にいて、日差しを送ってきている。
遠く北アルプスの上空から届いた光が、わが家の後ろにある雪をかぶった斜面だけを照らし出し、暗い冬の朝に幻想的な光景を生み出している。
雪のついた電柱が光の中に立ち、電線もまた白くその存在を高めている。
しばらくして、周囲はまた一気に暗くなった。
太陽が雲の中へと吸い込まれていくようにして消えてしまったからだ。
もう寒さに耐えながら立っている必要もなくなっていた。
五分もいなかっただろう。
ただ、朝のほんのちょっとした光景だったにも拘わらず、どこか荘厳で異次元の世界にいたような気分だった。
冬になると、今でもこの写真をよく見る。
しかし、あれからもう何年も過ぎているのに、あの時ほどの美しい生の光景とは再会していない。
ときどき、それらしき朝すぐにカーテンを開けてみたりするが、なかなかああいう具合のシーンには遭遇しないのだ。
大げさだが、あれはわが家周辺における奇跡的光景だったのかもしれない………
こんにちは。
ここらあたりの表現
「富山平野の上空をまっすぐに伸びて、石川との県境の山並みも軽く通り越し、河北潟干拓地の平原上を経てやってくる。」は 志賀直哉の暗夜行路の大山からの内海の景色 大根島の それを思い出します。
名文 いや銘文です。
失礼します。