ラジオで懐かしいジリオラ・チンクェッティの『雨』を聴いた。

歌詞の意味はほとんど分かっていないが、私たちの愛は雨になんか負けないワみたいな感じだったと思う。

この曲はボクが15歳の頃のものだ。ジャズに目覚めて鼻息が荒くなりつつあった頃に、しっかりとこういう曲にも触れていた…ということにまず驚く。

しかし、サンレモ音楽祭で優勝した時の『夢見る想い』の方が圧倒的に好きで、それを聴いていたボクはまだ10歳だった…という事実を知ってまた驚いた。

彼女は16歳くらい。7つ年上の素敵なお姉さんだったのだ………

そんな嬉しい?ことがあったせいであることに間違いはなく、ボクは今から雨の話を書こうとしている。

前にも書いているから重なる部分があるだろうが、構わずに書く。

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若い頃は、雨が好きですという言葉を信じられないでいた。

雨で部活(野球)の練習が軽めになるなど、たまにいいことはあっても、好きになるという域には至らなかった。

20代の半ばあたりから、山の世界を軸に自然系の旅に出かけるようになると、雨は嫌いなものの代表格になる。絶対に嫌いなものとしての存在感を、はっきりと有するようになった 。

そんな中、雨について…というか、雨に対して新たな見方をするようになったきっかけがある。

梅雨時のある日の夕方近く、兼六園の中を近くのバス停に向かって歩いていた。突然大粒の雨に降られ、目の前にあった茶店の軒先で雨宿りを強いられた。

店はすでに閉められていて、内側に白いカーテンが引かれた硝子戸の前に立ち、雨に煙る前方の石垣を見ていたと思う 。

雨の匂いがした。懐かしい匂いだと感じた。

時折、庇から水滴が落ちた。その一瞬に気を取られ、何度か繰り返されていくうちに、水滴の落ちるタイミングが計れるようになっていく。

水滴は次々と地面にできた小さな水たまりへと落ちる。そして、その音が間をおきながら徐々に大きくなっていくように感じた。

夕暮れが少し深まり、濡れた新緑が薄く弱い光を反射させている。

そして、あの雨の匂いが、暗がりとともに消えていったような気になった。

あることを思い出した。           

大学時代の日本文学の先生が語っていた、文学における日本の雨についての話だ。 

日本的な、日本らしい雨の風景、情景を、日本の作家たちはまだ書き切れていないんだよね………

長髪で太い黒縁メガネをかけた先生が、タバコの煙に巻かれながら力説していた 。その日は校外の喫茶店での雑談?授業だった。

先生の話はその後なぜか尾を引いた。正直ちょっと面白いなと感じてもいた。

大袈裟に表現すると、雨を “情緒的” に見たのは、兼六園での雨宿りの時が初めてだったような気がする。

大学を出てまだ3、4年ほどしか経っていなかったが、あれ以来、梅雨が訪れると時折その話を思い出すことがある。

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ところで、山歩きでは雨を受け入れるのに5年ほどかかった。

運が悪かったのか、行いが悪かったのか、山を始めた頃にはよく雨に当たった。

なにせ、本格的な山行のスタートが土砂降りの剣岳。なかなか休みが取れないサラリーマンパーティ(俄か)の、梅雨真っ只中における強行山行だった。

伝蔵小屋(現早月小屋)から剣岳頂上に登り、カニの横ばいを過ぎたあたりで何か食べようということになった。小屋の朝飯から何も腹には入れていない。   

そう言えばと、リュックに入れておいた缶詰のことを思い出す。蓋を開けた途端に、何人かの汚い指が突っ込まれてくる。また雨も降ってくる。その雨が缶の中に入らないようカラダを寄せ合う。何を食べたのか、そんなことは問題ではなかった。

雨の山行では、大袈裟だが自分との闘いという感覚に陥った。

雨に叩かれながら岩場を上り下りするのは危険も伴う。風が出てくるとなおさらだ。なんで、こんな所へ来たんだと自分に怒っている。

剣岳以降2回目も3回目も雨降りに遭った。さすがに山への積極性が薄れてもいた。しかし、それだけではつまらない。

その後、雨あり晴れありの山行を繰り返すうち、連日の雨の中を平常心で歩いている自分に気が付いた。

そして、山肌から上空に吸い上げられていく水蒸気を、余裕をもって見ている自分がいた。

またまた大袈裟だが、雨にというよりも、自分に勝ったという感覚だったのだろうか。

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雨は決してやさしくはない。                  

時折人の生活や命までをも奪う恐ろしい存在にもなる。      

自然のさまざまな姿を創り出す源でもある雨は、裏表なく厳しさを見せることも忘れない……

だから、雨は好きでも嫌いでもない。どちらでもいい。都合よく変わっても仕方ない。

外では、秋の雨が静かに降り始めている………    


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