油揚げを枕に柿木畠のヤキメシ


能登の羽咋で買ってきた油揚げが美味いと書いたら、それを読んでくれた金沢・柿木畠の喫茶「ヒッコリー」のマスター・水野弘一さんもそれを買い求めに出掛けられ、そして大量に買い込み、大変美味かったとコメントをくれた。

とにかく美味いのだから仕方がない。それに前には書かなかったが、姿形もいい。

油揚げらしい“ふくよかさ”があって、煮汁をたっぷり吸いこんでいけるだけの“器の大きさ”を感じさせている。

そのことを感じ取ってくれた水野さんは、行動力も凄いが、嗅覚も凄かった。

水野さんにはもうひとつ大きなニュースがあった。それは、二十五年以上も前に、金沢香林坊にあった洋食屋「大洋軒」という店の看板メニューを受け継いだことだ。

その店は、今の香林坊109が建つ場所にあった、本当に小さな店で、数人しか座れない狭いカウンターがあるだけだった。

ボクは高校生の頃に親友のSとよく一緒に行った。店に入ると、ほとんど横歩き状態で、カウンター客の背中を擦りながら奥へと進む。

定番メニューは「焼き飯」だ。

カウンターを挟んだ厨房に夫婦が入り、おっかさんがご飯を渡すと、受け取ったおとっつあんがフライパンにあけ、ほぐしながら激しく煽る。フライパンとお玉のぶつかり合う音が響き、時折上がる炎に、オオッとのけ反ったりした。

出来上がった焼き飯は、所謂“洋食屋の焼き飯”で、ちょっと脂ぎった飯の上に目玉焼きが乗っかっていた。

飯の盛り方がボコボコしていて、ボクとSは決まって目玉焼きの真上、つまり黄身のど真ん中からソースをかけるのだが、そのソースはすぐに目玉焼きから流れ落ち、飯に沁み込んでいく。

本当はこうなることぐらい分かっていたのに、仕方がないな~と、飯をクシャクシャと混ぜながら目玉焼きもついでにクシャクシャにしていき、黄身が完全に崩れる頃を見計らってスプーンで掬うと、そのまま一気に口に運ぶのだ。

ほくほくとした、しかし中華の所謂「チャーハン」とは違う風味が口の中に広がる。

味はソースが効いてシャープだった。特に夏の暑い日には、汗をタラタラかきながら焼き飯をモゴモゴと食った。

食後の口の中には、何となくというよりは、はっきりとしたヒリヒリ感も残っていたりして、とにかく美味かったなあという喜びと、ワレワレはついに食ったのだという満足感があった。

そんな焼き飯は、香林坊の再開発と同時に店じまいし、その後某所において続けられてきたらしいが、一般には接することは出来ないままいた。

そして、その某所での継続も終わり、かつての大洋軒の二代目さんから、なんと水野さんに継いでもらいたいという依頼があったということだ。

水野さんは、敢えて自分に白羽の矢が立ったのは、自分が半プロみたいな存在だったからだろうと言っていた。

焼き飯は、今流行の「B級グルメ」を代表するメニューだ。だから、とんでもない一流には逆に出せない味だという意味なのだろう。それと水野さんの人柄を知る者には、何となく納得できる話でもある。

始めたばかりの、その焼き飯を先日いただいた。美味かった。懐かしかった。

ヒッコリーという店が昔の大洋軒でないことを除き、あの脂ぎったような風味は逆に出せないことを考慮してボクは味わった。ご飯粒よりも大きくはしないという具たち。焼き飯はご飯がすべてという思いが込められていた。でも、やはり庶民の味なのである。

人気が出過ぎると逆効果になって、水野さんは自分の首を絞めることになるのだが、このニュースは、六月二十二日の地元紙で報道されることになっている。

ちょっとだけ余計な心配をしたりしながらも、次はいつ行くかなと考えたりもするのだった……


「油揚げを枕に柿木畠のヤキメシ」への5件のフィードバック

  1. おぉw あの「大洋軒」の焼き飯が、ヒッコリーにJターン?してたんですかッww

    いやはや、なつかしいですね。・・・さっそく、イッてきますぞww
    (でもでも、ゴハンの色が、写真ではちょっと白すぎませんコト・・・?)

  2. Nikonではなく、ケータイのカメラなんで、
    ちょっと自分でも不満なんです。
    テカッテルしね。
    でも、大洋軒は根本的に油ぎった店だったから、
    ヒッコリー・水野さんには真似できない部分があるんだよね。
    大洋軒の焼き飯は、もっと色が濃かった。
    しかし、あの風味は残っていた。
    ところで、アーカイブの改良、よろしく頼みます…

  3. 大洋軒の焼き飯が復活とは!!!!!!!
    昭和四十年代前半を金沢で学生生活をおくったが、いまだに忘れられないメニューの一つ。ただ、どうしても頭がモヤモヤしていることがある。あの北国書林の横には、大洋軒と並んでもう一軒洋食屋さんがあったように思えて仕方がない。記憶違いだろうか。そして私の記憶では、私が食べに出かけたのは大洋軒という名前ではなかったように思うのだが、   私の周辺の友人たちは大洋軒だといっているが、
    とにかく、明日にでも富山から食べに行こうと思う。

  4. ご記憶どおり。
    大洋軒のとなりにも洋食屋がありました。
    ただ、焼き飯はやはり大洋軒で、
    お隣さんは、もっと豊富なメニューだったようです。
    ランチタイム・コーヒー付きで1000円。
    お楽しみのほど。

  5. 土曜日の新聞に載ってから、とにかく大賑わいのようだ。
    予測していたとはいえ、水野さんもやや困惑気味…かな?
    土曜はご飯がなくなって、即オーダーストップ。
    おかまを買い替えると水野さんは言っていたが、
    労力は大変だろうなあ。
    日曜には、輪島から老夫婦が来たらしいが、店は日曜が定休日。
    申し訳なかったと水野さんは恐縮していた。
    ボクも新聞取材を受けてコメントが掲載されたが、
    ここしばらく水野さんとはメールのやり取りだけとなっている。
    店の方にはしばらく行かないことにした。

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