秋の定番・桂湖にまた行く


五箇山から白川村へと向かう途中に、桂湖への道がある。

一気に高度を稼ぎながら境川ダムまで登り、あとは湖を見ながら水平に進むと、湖畔の公園が見えてくる。

家からだと、金沢森本インターから北陸自動車道、東海北陸自動車道を経て、一時間強もあれば桂湖に着いてしまう。

もの凄く得をしたような気分にさせてくれる場所だ。

得をしたと感じるのは、その短い時間で、こんなにも素晴らしい風景に出会えると思うからで、贅沢を言えばきりがないが、何度来てものんびりできる場所で好きだ。

今回は途中の城端サービスエリアで、一応名物になっているおにぎりを食ったせいもあり、二時間近くかかった。しかし、それも得の一部なのだ。

ついでに言っておくと、このサービスエリアの奥には桜ヶ池というスポットもあって、ぶらぶら歩くのにいい。

 

桂湖は四回目だと思うが、記憶は定かではない。

きっかけは、カヌーが出来るということだったが、あの広い水面を見て独りでのカヌーはやめた。

ほとんど人がいなくて、初心者みたいな自分にはかなりの決断と慣れた同乗者が必要だった。

クルマを下りて、ゆっくりと見回す。

去年の同じ時季に来た時ほど紅葉は熟しておらず、ちょっとがっかりした。

去年の紅葉は凄かった。正確には黄葉と紅葉で、前者の存在感も大きい。

ボクとしては、黄葉にもなかなかの好感をもっており、紅葉は鮮やかすぎると少しいやになる。

そんなわけで、桂湖周辺で見る紅葉と黄葉にはいいバランスがあり、かなり好きなのだった。

ところで、桂湖の奥には、石川県から言うところの「犀奥の山々」への登山道が伸びている。

最奥というのは、犀川上流のその奥のことで、山々が石川と富山の県境になっている。

金沢からだと熊走の奥、かつて倉谷という村があった場所を経て登る。

実際に登ったことはないが、かなり厳しい道だということだ。

桂湖奥からも、いきなりハシゴ状の登りになり、切れ落ちた台地状の道を最初に進む。

ハシゴ状の登りもスリルがあるが、その後で出くわすマムシやトカゲなどの爬虫類たちの多さにもかなりスリルを感じる。

決して楽しいスリルではない分、途中でイヤになる。

ボクもそうして途中から引き返した。

特にその時は山登りに来たわけでもなかったから、装備も全くなくて、一時間も歩かずに戻ったのだが、仮に登山準備万端で来ていても逃げ出したかも知れない。

それほどに足元でガサガサ動くアヤツらには参った。

ところで、桂湖はダムによってできた貯水湖だ。

そして、察しのとおり、その底にはかつての桂という村が眠っている。

五戸の合掌造りの家があったという。

初めて訪れた時、水が少し涸れていて、奥の方にまで来た時に何となく人工的な道のようなものが目に飛び込んできた。

湖の底にかつての生活の場が眠っていることを想像した。

白山麓の深瀬や桑島、大日岳の麓の村など、近場にもいくつもそういった土地があって、その場の空気のようなものを感じたことがある。

ビジターズハウスで、展示紹介されているそんな情報をあらためて確認しながら、少し離れた湖畔にある大きなログハウスの店に初めて入った。

知的な老紳士が、奥様だろうと思える人と一緒に立って、もう一組の老夫婦に話しかけている。

後で分かったのだが、その老紳士はこの地域にあった小学校の先生だったらしく、その日の午前中、かつての住人達が集まり、 その先生の講演があったということだった。

桂に語呂がよく似た加須良(かずら)という村が、今の湖の反対側上部にあったらしく、桂よりも多くの人たちが住んでいたということだ。加須良は、岐阜県に入る村だった。

                       ※お店に掲示されていた写真

桂には五軒しか家がなく、屋根の茅葺きなど多くのことを加須良の人たちとの助け合いでやっていたらしい。

しかし、厳しい生活環境から、加須良は村自体を解散することにした。

それによって、桂の人たちもそこで生活ができなくなった。

桂村の美しい夏の風景が写真に残されているが、生活の厳しさは想像を絶するものだったのだろう。

 

独りで店を切り盛りしているらしいおカアさんに、コーヒーを頼んだ。

するとオカアさん手作りの漬物などが、まるでスイーツのセットメニューみたいにしてテーブルに届けられた。

何もかもが美味い。根本的に苦手としているミョウガすらも、アッと驚くような後味を残して、ボクの中に好印象をもたらした。

我が家風に言うと「クサムシ」、一般的に言う「カメムシ」もアッと驚くほど多かったが、ミョウガの後味ほど印象深くはなかった。

そして、おカアさんは最後に青い葉っぱのいっぱい付いた赤カブを持ってきた。

これ、邪魔でなかったら持って行って…。

そして、漬物にしても、煮て食べても美味しいよとビニール袋に入れた。

コーヒーもそれなりに美味かったが、味わっているゆとりがなかった。

おカアさんは、店の外まで出て、見送ってくれた。

また、来られよ。

境川ダムのすぐ上に、ススキの繁茂する崖があるが、ちょうど山に隠れる太陽の光が差し込む時間だった。

秋には必ずここのススキを撮影している。

いつもそれほど長い時間滞在しているわけではないが、ここへ来た時はいつもいい気分になる。

今回もそのことに納得した桂湖であったのだった……

 

 

 

 


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