ビールは体育実技だ


もう一ヶ月も前になるんだと思いながら、7月30日の深夜、京都四条の某ホテル8階817号室で綴っていた文章を読み返している。

狭い机に向かって、『ビールの科学』という本の読後感想文を書こうとしていて、途中でやめた。

その一時間ほど前まで、高台寺の近くの「T界」という、いかにも京都らしい古い佇まいのお店で、ひたすら冷たいビールと好奇心をくすぐるクリエイティブな料理をいただいていた。

案内してくれたのは、F見クンというクリエイターで、その店は彼の会社の社長さんがオーナーらしかった。

F見クンは、店内の襖や壁、座布団などに施されている、非常に繊細なプリントを手掛けていた。

金沢美大に入った頃から大学院を卒業するまでは、ボクの会社でアルバイトをしている。

なかなか機転が利いて、突っ込みも鋭い優秀なスタッフだったが、本業が染色という特異な分野だったこともあり、結局その能力を活かせる会社に就職した。

それ以来だから、もう十年近く会っていなかったことになるが、「T界」から八坂神社を抜け、四条通を烏丸まで語りながら歩いた。いい時間だった。

彼の創作や実直で子煩悩な人柄については、また今度4000字ほどに簡単にまとめて書くことにしよう。

 

ホテルに戻ってシャワーをすると、37度の猛暑に耐えてきた体が汗臭さから解放された。

それにしても、午後三時すぎ、烏丸御池から四条烏丸まで歩いた時に見た人々の表情たるや、あれはすでに苦痛を通り越し、最早、どうにでもしてよ的茹だり顔であった。さすが京都だ。

これからビールのことを書こうとしているのだからと、外から買って来た缶ビールをまず一本開ける。

缶の半分ほどを飲んでから、風呂上がりの汗をもう一度拭き、さらにまた缶ビールを手にすると、あっという間に一本が空になった。

昔、今日みたいな猛暑の京都で、四条のビルの屋上広告塔に付いていたデジタル温度表示が40℃を示しているのを見て驚いたことがある。

四条大橋の上から、何人かの人がその表示を指さしていた。

その時のボクは、四条通りのN村証券京都支店の前で「からくり時計」をじっくり観察した後だった。

当時、金沢の某商店街に提案しようとしていた「からくり時計」については、その時も伏見の商店街へ行ったりして、なぜか京都が先進地だったのだ。

で、四条大橋を渡った後、八坂神社に向かい、八坂から高台寺などを経て、清水寺まで歩いた。

ここまで来れば、最早観光でしかなく、仕事成果はカメラの中にしっかり納まっていたのだ。

とにかく暑かった。扇子を一つ持ってはいたが、扇いでも熱風が顔に当たるぐらいで、とても涼気を感じるなどといった雰囲気ではなかった。

ただ、その頃のボクは、野球と山岳と失恋とで鍛えた体力と忍耐力(根性)には自信があり、生半可なことではヘコたれることもなかったのだ。

そのことを支えていた大きな力?のひとつに、“汗をかけばビール”という安直だが心強い依存物があった。

これは、山でもよくあることで、例えば朝四時に麓の小屋を出発し、同九時近くに中継点の山小屋に着くと、そこでまず缶ビールを空けた。

喉が渇けばビールといった感じで、飲み物=ビールが普通になった。

しかし、一旦飲むと、その後が辛くなってくる。

特に長い行程を歩くときや、岩場の連続などといった時は、ビールを飲んだことを後悔したりした。

京都でも同じだった。

午前中からではなかったが、特に高台寺から清水にかけては、赤い大きな和傘が見えてくると、毛氈の敷かれた床几に腰を下ろし、中ジョッキの生を注文する。

傘があっても、具合悪く日陰になっていない所もあったりするが、それでもとりあえず中ジョッキだった。

当然、アタマはカンペキにボーッとしていた。

 

そんなことを思い出しながら、『ビールの科学』をもう一度手に取った。

そして、表紙を見ながらじっと考えた。

結局、この本はボクにとって何だったのだろうか?

何となく覚えているのは、コクとキレのこと。

ウグウグッ、ウッグゥ~と喉を鳴らしながら飲みこんで、胃にまですべて到着したかなと思った瞬間に、ウッ、ウップァァァ~と濃い息を吐く。

このウグウグがコクで、ウパ~がキレだということで、これがビールの決め手だということだった。

なるほどとかなり激しく納得した。

あとは、皆で楽しくやる時にはビールがいいということ。

シャンパンも炭酸が入っているから、乾杯に使われるが、ビールはいかにもめでたい系や、憂さ晴らし系にもってこいだということ。

これもひたすら納得した。

それ以外は、ホップがどうのこうのとか、麦芽がどうだとかと言われても、大いなる納得には結び付かなかった。

つまり、途中からかなり読むのも辛くなり、とりあえず一応…的に読み終えたが、アタマには何も残っていない。

ボクは思うのだが、ビールはしみじみ飲むものでもないから、何も考えなくてもいいのではないかと。

それに、ビールには科学は似合わないのではないかとも。

ビールに合うのは、科学ではなく、体育実技とか英会話ではないかとも。

そんなわけで、『ビールの科学』の読後感想文は、やはり書けないと言う結論に至り、これから体育実技的に、缶ビールを思いっきり力強く開けようかと思った次第なのであった………

 


「ビールは体育実技だ」への1件のフィードバック

  1. なるほど、ナカイさんらしいご意見。
    よく分かりますね。

    それにしても、今年の夏はビールが美味いです。

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