🖋歩くことは想うこと…「想うために歩く」の序章

🖋 歩くことから生まれる想い……

何年も前から、私は自分がやっている山里などを歩くという行為について、自分なりの意味を感じていたんです。

そして、気がつかないうちに、そのことを伝えるための“カタチ”を見つけようとしていたんだと思います。

背景的なことは異なりますが、かつてそんなことを誰かが微妙に書いていて、それを読んだ時に、そう！そうなんだと激しく共鳴したのを覚えています。

その趣旨は、「歩くということそのものが考える・思考すること…」といったもので、私がまさにそのことを自分に感じながらいたということだったんです。

今私のアタマの中にあることを敢えて言うとすれば、歩くというのは運動でもあるが、それ以上に思考でもある…ということになります。

しかし、さっきの誰かもその具体的な表現に苦労していたようです。

私も長くクリエーターをやってきました。プランナーであり、ライターでもありました。

散歩しながらアイデアを生み出していくみたいなことはたまにやっていましたが、今の自分が思っているのはそんな世界と違うようです。

それも相当の違いなんです。

🖋 思うではなく 想う……

今私は、まさに思考するために歩いています。

そうした行為を『歩考する』とか、『想歩する』いう言葉にしたりしていますが、ピンときません。

ただ、考えるというより「想う」であり、「思う」でもありません。

雑誌を見ながら、コーヒーを飲みながらの時間などにも、それが当てはまるかもしれません。

しかし、歩くという時間はまったく次元が異なると思っています。

それは、歩くには、具体的な場所、今歩いているその場所があるからです。

そして、その場所や環境がシュールとまではいかなくても、それなりに日常から外れていればいるほど、私は考えること、想うことに意味が生まれ集中できるような気がしています。

そんな状況ほど、ニンゲンの想像力や創造力が活性化すると思います。

そうした環境には必ず裏付けがあるからです。

かつて私は、山の世界へのあこがれから単独行を繰り返すひとりの若いニンゲンでもありました。

もう何十年も前のことですが、山を歩くことがもたらしてくれる何でもないことに、自分がすごく満たされている…

そんなことに気がついたことがあります。

大きな岩の上に仰向けになって空を見上げる。吸い込まれていくような濃い青の世界と、そこに浮かぶ白い雲を見る。

私はそこで家族のことを想ったりしていました。それが新鮮でした。

そしてそれは、その場所に自分がいた、いやその場所に自分が来たということがもたらしてくれたものでした。

今の私にとっては、それが山里という場所のような気がしています。

山里はよく、“日本の原風景”とか、“田舎の風景”、“なつかしい”、“のんびりとした”などのキーワードで括られます。

しかし、山里には山里としての美しさや温もりなどと共に、厳しい現実もあります。

そこにある、あるいは残っているものと、無くなってしまった、あるいは無くなりつつあるものとがはっきりと分かります。

生活の姿・カタチなどが、そのことを示してくれる最もはっきりとした証です。

そんなことを考えながら、この前も奥能登の山里を歩いていました。

５人の老人たちと出会い、話をしました。

🖋 自然ではなく 「自然さ」

再び「自然さ」という感覚を味わっています。

ニンゲンも含めたすべての「自然さ」です。言うまでもなく、あらゆる環境と深く結びついています。

これはかつて、親しくさせていただいた山の達人たちから感じ取った感覚です。

山の世界のすばらしさもきびしさも身に付いた人たちが発するものです。

山里の見晴らしのいい畑にいた三人の仲良しおばあさんたちは、おしゃれな農作業ウエアを着て、おしゃべりをしながらゆっくりと手を動かしていました。

最初は、私のことを不可解そうな目で（当然でしょうが）見ていましたが、私が尋ねた古い道の話などに、丁寧に答えてくれました。

その場を離れる際には、気を付けんとダメやよとも言ってくれました。

里をはずれ山越えしていく道に入ったところで出会ったおじいさんは、手押し車に腰を下ろし、ランニングシャツ一枚で顔の汗を拭っていました。

私が不思議に思っていた山越えの道の狭さのことや、途中に派生していく小さな道の行く先などについて話してくれました。

かなりのお歳だなと感じましたが、年齢を聞くとアタマをかきながら「分からんわ…」と言っていました。

笑ってごまかすような雰囲気ではなく、本当に分からないような感じで、敢えてそれ以上聞いたりはしませんでした。

これが、「自然さ」なのです。「必然性」にもつながる「自然さ」なのです。

自分の年齢など、日々の生活にはどうでもいいものなのです。

こういう山里に何があるのかというと、その「自然さ」があります。

自分としては、この自然さを求めて山里のような場所へと出かけているとも言えます。

しかし、山里ははっきり言って衰退しています。

先日も、新聞に投稿されていた奥能登に住む高齢女性の言葉にせつない気持ちになっていたところです。

かと言って、自分がそのことに直接何かができるということでもありません。

ただ、そういう場所を歩くことで、そういう場所のことを想い、自分の言葉で何かを発信するだけです。

しかし、何度も言いますが、まだ正しく伝えるカタチを見つけていません。

今まで多くの山里やそれに類する場所を歩き、雑文ですが多くを書き残してきました。

何も特別なもののないそのような場所に、自分なりの魅力を感じてきたからです。

ずっと以前から、クルマで走ってきた素朴な光景や情景の中の道に、自分がどうして心を動かされてきたのかを知りたいだけかもしれません。

敢えて歩くという行為の中で、ゆっくりとしか動かない風景、常に全方向に目を向けられる自由さ、ダイレクトに肌に当たる空気感などを愉しみ、自分や自分の周囲のこと、たまにちょっとむずかしい世の中のことも考えたりします。

トレッキングでも、トレイルでもいいです。お遍路さんみたいな感じでもいいかもしれません。自由です。

趣のある神社などは、心を新鮮にしてくれます。もちろん古民家や小川や草花も必須アイテムでしょう。

そして、人です。人はおもしろくて、心が和むエピソードを語ってくれます。

しかし、そんな話からときどき寂しい気持ちを強いられたりもします。

のどかな世界に潜む寂しさもまた、今の山里にはあるのです。

だから、私は歩きたいと思っています。

今はとにかくできるだけ歩きたい、それだけです。

……ここに書いたものは、金沢の某店でノートに走り書きしたものが草稿になっていますが、ほとんどまとまりなどありません。

序章などといい加減なタイトルもつけたりして、まとまりの悪さに言い訳をしているような感じです。

読んでいただき、ありがとうございました。

さて、これからどうするかですが、とりあえずまた歩いて考えたいと思います………