B級風景と港の駅の油揚げ


志賀町の図書館で、いつものMさん・K井さんと打ち合わせ及び雑談を楽しく済ませた後、羽咋滝町の「港の駅」へと向かう途中で、懐かしい風景に出合った。

その話に入る前に、MさんやK井さんのことをちょこっと書いておこう。

二人とはもう何年もの付き合いになる。知り合いになった頃、Mさんは志賀町図書館にいて、地元が生んだ多くの文人や画人などを広く多くの人たちに知ってもらうために頑張っていた。その企画にボクも参画していた。やさしそうな容貌とは裏腹に熱い情熱をもった人だ。島田清次郎を取り上げた「金沢にし茶屋資料館」や、「湯涌夢二館」の仕事などでご一緒させていただいている小林輝冶先生(現徳田秋声記念館館長)も、Mさんの存在を非常に頼もしく語っておられる。

一方のK井さんは、かつて志賀町と合併する前の旧富来町の図書館にいた。K井さんには前にもよく書いてきた、旧富来町出身の文学者・加能作次郎に関する仕事を頼まれ、記念館の創設や冊子の作成などをお手伝いさせてもらっている。その仕事も小林先生と深く関わりのあるものだ。ついでに書いておくと、K井さんは女性である。ボクよりもちょっと年上で、“姉御肌”の女史的司書といった感じだ。

二人は今、互いに居場所を入れ替え、それぞれの図書館で中心的に活躍している。定期的に仕事をいただいているボクには、単なる仕事相手という直接的な存在ではなく、その仕事を通して知り合えたさまざまな人たちとの懸け橋になってくれる存在でもある。

今度はどんな人と出会えるかと楽しみなのだが、K井さんでは地元出身の有名女流漫画家の先生と会える段取りをしてくれているみたいだ。かなりの酒豪と推測しているK井さんなのだが、どんな形で盛り上がるのか、恐る恐るも期待している。

先日金沢の西部地区にオープンした「海みらい図書館」に行って、その洗練された雰囲気にかなり激しく溜息をついてきたのだが、志賀や富来の図書館には、もっとボクの好きな大らかな空気が流れている。

昔、金沢大手町、NHK金沢放送局の裏側、白鳥路の入り口付近にひっそりと建っていた市立図書館の佇まいが、ボクの図書館に対する原風景だ。ギィーッというドアの開く音、本たちが漂わせる匂い。あんな空気感に最近出会うことはなくなった…。

志賀や富来の図書館にそんな空気が残っているとは言わないが、立派過ぎて落ち着かない図書館から最近足が遠のいているのは、自分でもよく分かっている。

志賀町図書館を出て、たまに昼飯を食べる中華屋さんのある交差点を右へと曲がる。志賀から羽咋への道は、右手の日本海に沿いながら伸びている。志賀には大島(おしま)、そのまま羽咋に入ると柴垣という海水浴場・キャンプ場があり、幹線道路から一本中に入れば、海に近い町の佇まいが色濃く残っている。

柴垣にある旧上甘田小学校の建物、特に奥にある古いままの講堂(タイトル写真)には以前から関心を持っていた。高校生の頃だろうか、気の合う仲間たちと柴垣でキャンプをしたことがある。大鍋で何かよく分からない晩飯を食べ終えた後、ボクはこの小学校の校庭の隅に寝っころがって、夜空を見上げていたことを覚えていた。ボクの横にはO村Mコトくんという血気盛んな友もひっくり返っていて、彼と、何だか毎日が果てしなく面白くないのである…といった会話を繰り返していた。

当然夏のことであったが、夜になると海岸べりは冷え込む。松林があり、海風にその松の枝が揺れていた。雲はほとんどなく、星がぼんやりと光っていた……

そんな思い出の中に、かすかにその古い講堂の建物も残っていた。講堂というのは、自分が通っていた小学校での呼び方だ。今なら体育館という方がいいのかも知れないが、ボクにとっては、あの大きさ、あの形は講堂なのだ。

あの時以来初めて、ボクはその校庭跡に足を踏み入れた。今はゲートボールかグランドゴルフかのコートになっているのだが、その狭さが意外だった。

話が聞きたくて、正門の方に回ってみた。ちょっとカッコいい感じの二宮金次郎の像がある。記念碑もあったが、裏側に回ることが出来ず石に彫られた文章を読むことはできない。建物はコミュニティセンターになっていて、誰かいるだろうと玄関に向かってみた。しかし、玄関のガラス扉に貼られた紙に、主事さんの不在の旨が書かれてあった。

もう一度、講堂の方に戻り、板壁に触れてみる。今は何に使われているのか分からない。ガラス窓から中を覗いてみると、強く昔の匂いがしたように感じた。

あの時確かに、仰向けになっていた視線を横にすると、暗い空の中に、かすかにこの講堂のシルエットがあったのだ。ボクがその時に見たもっと前から、この講堂はこの場所に建っていた。その時ですらも、古い学校のイメージを抱いていたのに……と思う。

 夕方近くに羽咋滝町の「港の駅」に着く。店には折戸さんと愛想のいいおばあさんがいた。このおばあさんも重要スタッフのお一人であることはすぐに分かった。いつもの美味しいコーヒーを今度はきちっとお金を払ってからいただく。そして、三人でいろいろな話をした。二度目だが、二人とも親しく接してくれ気兼ねが要らない。落ち着ける場所なのだ。

港の駅の大親分・福野さんに会えるかもしれないと思っていた。しかし、姿はなかった。家の前にも愛車パジェロはなく、入院が長引いていると言う。そう言えばメールの返事も来ていない。心配になってきた。大親分とは、もっとやっておきたいことがいっぱいある。早く元気になって戻ってきてもらいたい。

今回は、サバの粕漬けと三角油揚げを買った。油揚げは翌日食べてみたが、果てしなく美味かった。最近これほどの油揚げを食べたことがなく、これは是非一度試してみることをお勧めしたりする。

両方ともお隣の志賀町の産なのだが、滝からすればご近所に見える。ところで何度も書いてきたことだが、油揚げはボクにとって非常に重要な食材である。子供の頃、正月にはボク用に?油揚げだけが煮られた鍋があった。一度に一枚分食べていたこともある。そのことを話すと、おばあさんは笑っていた。

帰り際に外に出て周囲を見回す。なんか夏のイメージが気になるなあと思う。今年の夏、この滝の港の駅がどうなるのか楽しみですと、ボクは口にした。もちろん、自分でも何かをしでかしたいという意味を込めていた。

ところで、ボクは今「B級風景」というカテゴリーを自分で勝手につくり、そのことを自分で楽しんでいる。自分だけの大好きな風景や情景などを集めている。今回のような日常の中に、そんな何かがはっきりと見えてきたように感じた。

B級と言うのには少しだけ抵抗はあるが、その分、人からああだこうだと言われたくないという点で納得できる。これからの楽しみのひとつだ。同好の友求む……かも。


“B級風景と港の駅の油揚げ” への6件の返信

  1. なんと、美味しそうな油揚げじゃないですか。
    写真の撮り方ですかね。
    B級風景って、今度詳しく書いてください。
    ボクも好きなカテゴリーだと思います。

  2. 油揚げはお世辞抜きに美味。
    いや、油揚げなどには、美味という言葉は似合わない。
    うまい!です。
    厚揚げと油揚げは違うし、
    そのあたりのところが近年曖昧になっています。
    ところで、B級風景ですが、
    どしどし写真などを送ってくれたら嬉しいです。
    勝手気ままに・・・

  3. 今日、三角揚げを買い、副代表の折戸さんと談笑しました。
    帰り永光寺で棟方志功展を見、
    帰り際、思いがけず、お茶と菓子をご馳走になりました。
    返礼に沢山、買った三角揚げを少し差し上げました。
    中居さん、お勧めの逸品なので楽しみです。
    美味しい情報ありがとうございます。

  4. 美味しそうな油揚げの煮物ですねー。
    確か冷蔵庫にT尾の油揚げが、あった、あった。
    健康と色採りの為に人参と小松菜もいっしょに…。
    そろそろ煮えたかしら。
    N居さんの
    「油揚げだけでいいのだー」の声が聞こえてきそう。(^o^)
    それでは失礼して
    「いただきまーす。う〜ん、美味しい」

    ちょっと最近色々あってここ数日情緒不安定気味。突然涙が溢れてきたり……。もう少しでアカウントを盗られるところでした。映画鑑賞、読書中に自分もそこに入り込んでしまうタイプでして、とても恥ずかしい思いもしましたが結果オーライと前向きにとらえています。
    雑文集だけは逃(のが)れられそうにないので今後ともよろしくお願いします。(感受性豊かなのも時には困りものです)

    今日は“母の日”カーネンション買いに出掛けましょ。

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